ペテン師と吸血女

猫神

夜歩く精神異常者

第1話:独白

 世界は停止している。

 少なくとも僕の瞳に映る世界は止まっている。

 車は空を飛ばないし、バーチャルリアルの世界に入ることもできない。本は相変わらずに紙製だし、電車は人でぎゅうぎゅう詰めだ。猫型ロボットもいない。

 世界は21世紀の初めから成長が止まりかけている。景気は良くはないけれど、大きな戦争はないし、食事にも困らない。技術はゆったりと進んでいる。

 とても平和な世の中で、昔の戦乱の世界に生きた人たちからすれば、とても羨ましいのだろう、けれど、僕にとってはつまらない。


 大通りを歩く人たちはみんな顔がないし、景色はセピア色にあせている。

 気がおかしくなりそうだ。退屈で仕方がない。

 このままだと脳髄は腐って、僕の顔は剥がれ落ちてしまうだろう。

 それだけは嫌だ。

 でも、殆どの人はそれを甘んじて長い人生を生きていくのだと思う。

 それでも僕は――――

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