スベりまくりのウエスト邸滞在
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★貴族としてのマナーを全く知らないナンチャッテ令嬢アイラ、問題なく暮らせるのでしょうか。
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起床後侍女に手伝ってもらい支度を済ませると、ジェシー・ウエストが一本のバラの花と日替わり健康ジュースを持ってわたしを迎えにやって来る。
「お目覚めですか、レディー。さあ、これを」
『体に良いから』だって。
ドロっとした紫色の何か。
どうやらこれを飲み干さないと朝食にありつけないらしい。涙目になってジェシー・ウエストを見上げると、満足気に微笑まれる。
か、加虐趣味!?
わたしが反応を示さないと眉が八の字の困ったちゃんになるから、とりあえず微笑みながら飲む。
あの顔は女を絆す武器よね。
朝食は本邸のモーニングテーブルで、オートミールとゆで卵とフルーツという簡単メニュー。
食後の紅茶を飲みながら、ジェシー・ウエストは何紙かの新聞を読んで自説を述べる。わたしは社会情勢を知らないのでイミフである。
この世界にはまだ親しみがないから、この国で戦争や革命が起きたとしても、国がなくなっても、(あっ、そうなんだ)としか思わないくらいの自信がある。
やがて執事のメルヴィンさんが今日の予定を伝える。
その後散歩服に着替え、ジェシー・ウエストのエスコートで公園や郊外をお散歩。軽めのランチを済ませるとやっと自由時間。
夜も更けてから銅鑼(どら)の音とともに晩餐。
ここで問題が起きた。
「それは何ですか?」
「アイラちゃん人形です、可愛いでしょ?」
「なぜ晩餐の席に人形が?」
「一緒に食べるんです」
「あり得ない、ソレは離れに戻しなさい。メルヴィン、お前が預かれ」
「えっ、嫌です、一緒でないと」
「淑女が子どもの真似をしてはいけない」
「失礼いたします、お嬢様」
執事に人形を取り上げられた、ギーズ邸では何も言われなかったのに!
「嫌!」
アイラは人形を抱きしめて泣いた。わたしじゃなくて……アイラ?
やめて、こんなところで泣かないで!
どうしてすぐ泣くの、アイラ?
(ママの人形、取り上げないで!)
今のは……本物のアイラ?
どうして今になって出てくるの!?
「持って、いか、ないで……」
泣きながら(アイラが)訴えた。
ジェシー・ウエストはナイフとフォークを静かに置き、テーブルナプキンで一旦口を拭いて食事を中断すると、これまでになく太い声で言った。
「あり得ない!」
あっ、雲行きが悪くなっちゃった。怒ると怖いんだよね、この人。離れへトンズラしようかな~、かな~(汗)。
「どこの貴族令嬢が人形と一緒に食事するんだ」
「だって、人形と一緒はダメという契約内容もなかったでしょ。それならわたし、一人で離れで食事します!」
フゥ~っと長い溜息をつき、ジェシー・ウエストがつぶやくように言った。
「大きい声を出してはいけない、晩餐はここでと決まっている。それが嫌なら食べないことだな」
(あっ、そうですか。ふんっ、そうですか)
そっちだって大きい声を出したくせに。短い期間だったけど離婚ですね、離婚! 結婚してないけれど離婚!
「分かりました。それじゃあ、わたし出ていきます。短い間でしたがお世話になりました。違約金はちゃんと支払いますから、後で請求書を送って下さい!」
ムシャクシャしたわたしはギュッと人形を抱きしめ、飛ぶようにダイニングルームを出た。
「待ちなさい!」
ここは息苦しい。自由な離れに戻るのだ!
リアル売り言葉に買い言葉をしでかした。わたし結構短気だった。
「どこへ行くんだ!」
大股でジェシー・ウエストが追って来る。ヤバい、DVされる!
追い詰められたわたしは、一目散にエントランスホールを目指して走った。ところが、ロングドレスの裾に足がつまずき、絨毯の上でうつ伏せに転んでしまったのだった。
ビッターン!!
「ぐふっ いっ、痛い……」
「アイラ!」
気が付くとわたしはジェシー・ウエストに肩で担がれ、人形とともに離れにお持ち帰りされたのだった。お姫様抱っこじゃなかった……。
「はぁ……特殊技に失敗したようだな。しばらく離邸で反省していなさい」
「えうっ!?」
(ヒドイ……DV男……)
わたしは離れに閉じ込められた。
ジェシー・ウエストがこんなにクソ真面目人間だなんて! クズなフェロモン大王だとばかり思ってたのに。
おにょれ、ジェシー!
二日間閉じ込められたら監禁が解けた。何と、アイラちゃん人形の許可も降りたのでした。
――わたしってば、どうしてあの人形にこだわっているんだろう? いや、アイラが?
※
ジェシー・ウエストは貴族議会に席を持っているため、外交補佐官の仕事をしていないといっても会議には出席しなければならないらしい。
知らなかった、わりと偉い人だった。
後見人との面会で貴族議会のことをランベール様に尋ねたら、『国内の貴族が出席する会議です。僕は外国籍なので議席はありません。裕福だったアイラ嬢の父君は出席していたと思いますよ……今のサウス家当主は……どうでしょうかね』と、皮肉まじりに笑っていた。
(ジェシー・ウエストと結婚したら議員の妻になるのか。わたしには無理だわ)
そんなことにはならないから別にいいけどね。
彼の生活はランベール様とは正反対だ。
何もしない。誰とも会わない。散歩と会議以外は出かけない。完璧な引きこもり。
ここはギーズ邸とは正反対だ。
女性の住人がいない。笑い声がない。BGMがない。何百年も停滞している感じ。賑やかだったギーズ邸がなつかしい。
そこで思いついた。
【アイラがいる間だけお屋敷の雰囲気を改造!】
な・ら・ば。
ランベール様との面会の際に頼み込んで、ミシェル・バルビエ氏を呼んだ。ジェシー・ウエストは嫌そうだったけれど、ランベール様がごり押ししてくれた。
「お久しぶりです、レディー。本日はボクを招いていただき光栄です。そろそろボクと結婚したくなりましたか?」
そう言いながらミシェルはわたしの手の甲にキスした。
「え? ええと、いや~、そういうことではなくて……ティータイムの演奏を頼みたく……」
手の甲キスは挨拶なのよね?
「バルビエ氏、私のパートナーに馴れ馴れしくはありませんか」
「いいえ、ギーズ邸では大層親密に接しておりましたので……」
「親密に?」
「はい、将来を誓い合った仲です」
「ち、違います。ミシェルさん、誤解されますからいい加減なことを言わないで!」
「ハァ……承知いたしました」
ファサ~とワンレンを思わせぶりにかき上げて不満顔をするミシェル。そんな顔もイケてるわ。
「立場をわきまえていただきたい」と、伯爵様が注意する。
「……承知いたしました」
天才ピアニストは、伯爵様に追放されそうになるというヘマをしたのである。
「アイラはあんなのと親密にしていたのか?」
「あ、あの、ミシェルさんは女性に対しては誰でもあんな感じですよ? 気にしないでください」
「そんな訳にいくか!」
あ~ぁ、怒った。
ギーズ邸では普通のことだったのに。ランベール様だって、わたしの手にキスしたり、ハグしたり、当たり前だったよ? 何を怒ってるの?
ジェシー・ウエストって短気じゃね?
それでも……ミシェルが演奏をはじめると機嫌がよくなったみたい。さすが天才ピアニスト、処刑された王妃様お気に入りだったっていうからね。前世だったらワールドツアーに行けるんだろうけど……あ、国内ドサ回りには行かされてたわ。
という訳で、ときどきミシェルがウエスト邸で演奏することになったのでした。ちなみにコイツは某伯爵夫人と不倫中です。
ランベール様、どうしてミシェルをのさばらせておくの?
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☞アモールの国ギーズ邸と厳格な国ウエスト邸では道徳観念が違うのでした。いきなり転生薄幸令嬢になってしまった北橘佳奈には分かりませんでした。ランベールとジェシーが分かり合えるかどうかも……どうでしょう。
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