はじめての舞踏会――渡る社交界は鬼ばかり
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★わくわくドキドキはじめての舞踏会。令嬢モドキは無事イベントをこなせるのか……。
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「あの方はどなたかしら? お見かけしたことがありませんわ」
「もしかしたらヴェストル伯爵様ではなくて?」
到着早々フェロモン大王が、蠅取り紙よろしくきらびやかなご婦人方の話題に上っております。
ド近眼なのでみなさまの顔はよく分かりません。
あえて言うとお化粧が濃いです。
香水がキツイです。
たぶん熟女レディーの集まりです。
何という事でしょう、わたしたちは熟女軍団に捉えられてしまったのです!
あちゃ~。
「少し……よろしいかしら? お邪魔でしたら申し訳ございませんけれど……」
「いいえ、お気になさらずに、レディー」
ジェシー・ウエスト、当たり障りのない笑みで受け答え。
「わたくしはオリエンス卿の従妹ですわ。あなたが新しいヴェストル伯爵様なのかしら、前当主様の面影が……どうして今までお会いしたことがなかったのかしら、お葬式におりまして?」
「申し訳ありません、レディー。当時は大学生で地方にいました。二年間社交から遠ざかったあと、ここ一年ほどは国外へ行っておりましたので」
「あのときは大変でしたものね。そういえば外交補佐官でしたわね。いつまでそんなお仕事をするつもりですの? あらっ、お隣の方はどなたかしら?」
「紹介が遅れてしまい、申し訳ありません。私が保護しているアイラ・サウス嬢です」
「あ……はじめまして、アイラ・サウスと申します」
「あら、サウス男爵家の……。エリーゼお嬢様がパートナーでないのなら、わたくしをパートナーにして下さればよろしかったのに。伯爵様でしたら夫からも公認していただけますのに。これから社交を復活させるのでしょう?」
(夫公認のパートナー……貴族世界は摩訶不思議)
「まぁ、お珍しい。ヴェストル伯爵様ですって? お隣の方は? ずい分個性的な目をしていらっしゃるのね」
「その……お連れ様は……冥界からお呼びになったのかしら」
「あら……ご挨拶が不自由みたいなんですのね」
「はじめまして、アイラ・サウスと申します」と、わたしはひたすら焼き刃で覚えた挨拶をした。
もう勘弁して!
次々と声を掛けられているのに、嫌味を言われても困った顔ひとつせず、丁寧に挨拶をしているジェシー・ウエスト。さすが外交補佐官。仕方ない、口角をわずかに上げて、『ホホホ……』と悪女っぽい作り笑いをしておこう。なめられたら嫌だものね。
「では淑女の皆様、これで失礼いたします」と無理矢理会話をぶった切って、わたしたちは集団から外れた。
「ここは居心地が悪い。今まで社交をほとんどしてこなかったから、社交界には疎いんだ」
「随分慣れているみたいですけど」
「仕事上やむなくだよ」
エリーゼが言っていた『アイラ・サウスは悪女』という噂が本当にあったのかどうかは分からない。だとしても、この個性的な目は隠しようがない。
同時に、『ウエスト家のご令息よ。今更どうして社交界へ出て来たのかしら?』『あのようなご令嬢が趣味なのかしら』『婚約者を隠したほうがいいんじゃないのか?』という陰口を耳にした。
ジェシー・ウエストを見上げたら、眉間に皺を寄せていた。
確か彼の父は何年か前、決闘事件で亡くなって……しばらく社交禁止で……。
この人は単なる偉そうなお貴族様だと思っていた――わたしをお金でどうにでもできる程度には。それにイケメンだしお金持ちだし、女性なんて選り取り見取り、モテモテだと思っていた。
――実際には違っていた。
※
ワルツがはじまると同時に人々の波が割れ、中央に流れ出たのは、王と王妃。
はじめて実物を見たわ~。
スマホで写真を撮りたい。
次から次へ、たぶんめちゃ偉い人たちが踊りの輪に加わった。
ぼうっ~と眺めていたら、ジェシー・ウエストがわたしの前で流れるようなお辞儀をした。
「ダンスのお相手をしていただけませんでしょうか、レディー・アイラ」
「はい、喜んで」
・⋆・⋆・⋆・⋆
にわか仕込みで習ったステップで、ジェシー・ウエストとダンス。
強引なリードでふんわりターン。
(ホールが眩しすぎて目がチカチカする。アイラの目は光に弱い)
「よそ見しないで、私の顔を見て」
「はっ!」
(体育会系か!)
周りがわたしとジェシー・ウエストに注目している。まるで舞踏会の主役になったみたい!
「軽々と踊っているじゃないか。練習のたまものだな。次の曲も続けていいかな?」
「また?」
「私たちはパートナーだからね」
「そういうことに、しておきましょう」
ジェシー・ウエストがわたしのウエストをグイッと引き寄せた。密着し過ぎ!
「ははっ、アイラは照れても可愛いね。このままキスしようかな」
「え、遠慮します! あくまで契約履行しているだけですから」
「今回は契約というよりはウエスト家への招待だ。それに、あの契約書は執事が作成したもので、私は関与していない」
「初耳ですけど。まさか、一回目の契約書も?」
「契約書自体は、そうだ」
「……わたしはそんな契約に縛られていたのですか、天誅!」
わたしはジェシー・ウエストの足をわざと踏んづけた。
「うっ……」
「ざまぁできた、ヤッター」
「仕返しだ」
(キャ~)
ジェシー・ウエストがわたしを持ち上げて、クルクル回った。
そのときの眩しい笑顔が今でも忘れられない。
・⋆・⋆・⋆・⋆
曲が途切れて退場。
そして舞踏会は、煌めく音楽とざわめきで最高潮に達しつつあった。
※
「まあぁ、ジェシー様、いらしていたのね! お会いしたかったわ!」
ジェシー・ウエストの知り合いらしい各国の外交官たちに挨拶回りをした直後、超音波が後頭部を直撃した。
(この声、聞き覚えあり!)
~舞踏会はまだまだ続く~
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☞次回、久しぶりの某北関東転生者登場です。
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