第29話 挑む者達

「私はやるよ」


 エマが立ち上がる。


「ここで引いたら女が廃るわね」


 シャルも立ち上がり不敵に笑った。


「腕が鳴るじゃない」


 ブランシュも力強く拳を握る。


「ヴェル、お前はどうだ?」

「やるに決まってるじゃん」


 俺の答えを聞き、ソニアがふっ、と笑った。


「よし、ならば我々月桂の冠ローレルリースはオーガ討伐を受けることとする!」


 ソニアが宣言する。

 しかし、受付嬢は……。


「私は反対です! 話聞いてなかったんですか!? それほどオーガは危険な相手なんです。毎年やられてる人の中にはCランク冒険者だけじゃない、Bランク冒険者でさえ負けることがあるんです! たった1回のミスで取り返しのつかない怪我を負わされる。それがオーガなんですよ!?」


 こともあろうにソニアの胸ぐらを掴んで反対した。それだけ失いたくないと思ってくれているのだろう。


「知っている。だが、これは必要なことだと思っている。我々が、月桂の冠ローレルリースであるためにも」


 ソニアに引く気はない。

 ああ見えて結構頑固だから。


「勝算は……、あるんですか。あれは一見してデカいだけに見えるかもしれません。ですが、その大きい、ということが最大の問題なんです。圧倒的なタフネス、パンチ一発で木をなぎ倒すパワー。一歩が大きいため、逃げるのも簡単にはいかないでしょう。その咆哮は格下の者を容易く畏怖させますし、掴まれるだけで骨が砕けます。そんな相手に、貴方達は本当に勝てるんですか!?」


 受付嬢がオーガの恐ろしさを語る。


「勝算なら、あるよ」


 俺は口を挟む。

 嘘じゃない。でもその前に戦力の確認と増強は必要だと思う。


「そういうことだ。だから、頼む」

「約束してください。絶対に生きて帰って来るって」


 受付嬢はソニアの胸ぐらを掴んだままだ。それが俺にはソニアに縋り付いているように見えた。


「ああ、約束する」


 ソニアがハッキリと答える。

 受付嬢は答えない。

 しばしの沈黙。


「……わかりました」


 受付嬢はようやく言葉を絞り出すと、ソニアから手を離した。


「手続きはしておきます。ご武運をお祈りします」

「すまんな」


 受付嬢はゆっくりと、それでも確かな足取りで戻っていった。


 兵士たちも集まり、ロジェ達は担架で運ばれる。


「すまねぇ……、ソニア」

「何も言うな。少し、休め」


 泣きながら謝るロジェに、ソニアは静かに微笑むと、そう伝えた。


「よし、戻って作戦会議だ!」

「「「おう!」」」


 ソニアが声をかけ、皆もギルドに戻ることにした。





「ところでヴェル、勝算はあると言ったが、根拠を教えてくれ」


 皆が席に着くと、俺はいきなりソニアに意見を求められる。


「うん、もちろん真正面からやり合うつもりはないからね? オーガ相手には毒を使う」

「毒?」

「そう。毒なら俺が作れるからね。それを塗って矢で注入する。それが第1段階」

「どんな毒だ?」

「コノトキシンって毒。刺されると患部が腫れ上がって、激痛や痺れが生じるよ。やがて全身麻痺を起こして呼吸不全を起こして死ぬ強力なやつね。これ、解毒魔法や薬で解毒できるか検証が必要かな。ゴブリンに使って試してみよう」


 解毒薬とか地球にもないからな。解毒できない毒を扱うのは危険過ぎるので検証は必要だろう。


 食用の魔物には絶対使えないのが難点か。


「ヴェル君エグい……」


 シャルがそれ言う?


「で、それが第1段階か」

「そう。身体が大きいから効きが悪いかもなので。それに効くまでに攻撃を凌ぐ方法も必要だよね。そこでエマの防壁プロテクションがどのくらいパワーアップしてるか検証してみようかな、と」

「うん、確かにこの杖のおかげで神聖魔法の効力が上がってるわ。それに新たな神聖魔法も授かったし、それも試してみたい」


 エマがうん、と拳を握りしめる。


「それならこのシャルちゃんもだねぇ。大分レベル上がったからね。新しい魔法の習得に成功してるのよ」


 シャルが自信満々に告げる。それは大いに期待できるなぁ。


「よし、ならば今日は訓練だな」

「「「さんせーい!」」」


 ソニアの号令で皆立ち上がる。

 今日は急遽、魔物を狩ることになったのだった。




 俺達はいつもの森で狩りを行う。


 ゴブリンの身体がコノトキシンにより麻痺症状を起こす。俺は試しに解毒薬を使ったが、改善はなし。


解毒ディポイズン


 エマが祝福されし者の杖を用いて解毒魔法をかけた。

 すると、ゴブリンはゆっくりと立ち上がりエマに飛びかかる。


「むん!」 


 俺はゴブリンを念力で止め、固定した。


防壁プロテクション!」


 エマは実験用に防壁を張る。  


「みんな離れて!」


 みんなが一斉に退避。今度の魔法は広域殲滅魔法なんだとか。

 ゴブリン一匹に大盤振る舞いだなとは思う。


氷嵐アイスストーム!」


 ゴブリンを中心に激しい竜巻が巻き起こる。いや、効果範囲!

 俺、20メートルくらい離れてたのに巻き込まれそうになったわ。


 ゴブリンは竜巻に乗って回転しながら宙を舞う。さらに竜巻の中には氷の刃が無数に存在していた。


 氷の竜巻が止むと、巻き込まれて打ち上げられたゴブリンは地面に衝突する。しかも氷の刃に切り裂かれ、既に原型を留めていなかった。


 さらに周りの木もなぎ倒され、凍りつき、森林の一部が完全に壊れた樹氷になっていた。


「うわー、えげつなー」


 使用したシャルも相当驚いているようだ。うん、確かにこれは広域殲滅魔法だわ。問題は環境の被害が馬鹿にならないことか。


 しかし、それよりも驚いたことが一つある。


「どうだ、ヴェル。いけそうか?」

「うん。エマの防壁プロテクションもこれならオーガの一撃に耐えられるんじゃないかな?」


 なんと、その中にあってエマの張った魔法障壁は、ヒビ一つなくそこに残っていたのである。


 ソニアもこの結果には大満足だ。

 うん、と頷くと皆に告げる。


「よし、ならヴェル。この討伐ではお前に私達月桂の冠ローレルリースの作戦指揮権をやる。シャルはそのサポートだ」

「「「了解!」」」

「え?」


 みんなが返事をするなか、俺だけ呆気に取られていた。


 マジ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る