第18話


 遠くで低く響く、音が聞こえる。


 不規則に辺りに広がる、その腹まで響くドンと言う音は、大きくなるにつれて、明るかった外がどんより暗くなっていった。


 日中だと言うのに、ここまで暗いとライトを点けなければならないのではなかろうか。


 次第にバツバツと屋根に何かが当たる音が混ざるようになった。



 窓を開けたままなら閉めてくるようにと促され、二階へ上がり、ソレ等の音の、正体に気付く。



 レースのカーテンに阻まれてはいるが、窓辺は水に濡れ、いくつもの雫が、部屋の中に吹き込んでいた。


 木製の窓枠もレースの布地も、腐食はされていない。

 しかしコレは……雨、か。



 窓の向こうでは、濃灰の空に光が走ってはドンと音が鳴り、時折海へと落ちては、その荒ぶる水面の上を走っていた。

 幻想的な景色である。



 同時に、恐怖も覚えるが。



 雷による、真夏の停電程恐ろしいものはなかった。


 非常用電源は施設の心臓部や、上層部の連中の快適な生活を守ることに使われる。



 窓を開ければ暑さからは逃れられるが、その代わりに、汚染された空気と濃い酸性の雨が吹き込んでくることとなる。


 窓を開けて涼を取ることは許されず、ただ氷を口に含み、うちわを扇ぎ耐え忍ぶのみだった。

 その氷を提供してくれる「氷のスキル」持ちも希少だったので、ツテが無いヤツはうちわオンリーだ。



 それを考えると、この家にある紋様が刻まれた道具は、滅茶苦茶便利だよな。



 霊力という謎エネルギーが必要だとは言え、独立して動いているから、天候に使用条件を左右されない。


 カンテラやランプのように燃料も酸素も必要ないから、エコだし中毒の危険性もない。



 こういう物が地球にあったなら、エネルギー問題や汚染物質問題も解決……まではいかなくても、緩和くらいはしただろう。

 また急ぎ足で、不確かな解決策を実行しなくても良かっただろうに。



 すぐに腐食はしなくても、濡れた木製品を放置していればカビが発生して、いずれ腐ること位は「知識」を流用せずとも分かる。


 なのでカノンに言って、濡れた窓辺を拭くための布を貰った。



 ついでに床掃除もしたいと申し出たら、必要ないと返されてしまった。


 お布団が洗濯必須って書かれてたから、部屋の掃除も必要かと思ったんだけど、雨の日って掃除に適さないの?


 首を傾げたら、俺が使わせて貰っている部屋は、使う前に精霊術で丸洗いをしたから、汚していないなら必要ないということらしい。



 なにそれ。


 精霊術とやらは、家事手伝いのお助け機能みたいな役割も果たしてくれるってこと!?


 よほどの綺麗好きということなら、雑巾もホウキも出すと言われたが、断った。



 自慢じゃないけど、俺は部屋の掃除は全部ロボット掃除機に任せていたからね!

 綺麗なのが当たり前の生活だったが、自分でするのは面倒臭い。


 なのでせっかく精霊術が使える素質があるということなら、精霊術で部屋の掃除をする方法を教えて欲しい。


 だがカノンのやり方は部屋の丸洗い、及び水をぶちまける方法とのことなので、まず濡れたら困るものを全て部屋から運び出さないと使えないそうだ。


 それなら、お布団を干す時になるから、晴れた日じゃないと出来ないね。






 思っていたよりも早く雨が降り出してしまったそうで、昨日干した薬草類の乾燥具合が、想定より進んでいないと、カノンは溜息を零した。



 このまま居間に放置しても邪魔なだけだし、湿気でカビてしまったら大変なので、地下に運び、風を発生させる紋様具を使って更に乾燥させるから手伝えと言われた。


 だが地下となると、あのほぼ垂直に立て掛けられているハシゴを使うんだろ。

 物を抱えて降りるのは、遠慮させて頂きたい。


 不慣れな俺はケガをするか、薬草をひっくり返すか、どちらかは必至となる。



 そう申し出たら、カゴを重ねて固定し紐を括り付けて下に降ろす方法を取ることになった。



 カノンが先に下に降り、俺がカゴを下ろす。


 全て下ろし終えたら、乾燥室に並べるために俺も下りる。



 その予定だったのだが、二階ほどの高さしかないので、カノンには危ないと注意されたが構わず飛び降りた。


 その後「完全再生」を加減して使い、欠けたり割れたりしてしまった薬草を、バレない程度に修復した。



 それこそ「再生」は、時間を操る力だ。

 早送りも出来る。


 使えば簡単に乾くんじゃなかろうか?


 あれ、それとも腐敗するのか??

 どうなんだ???



 使うかどうかはさておき尋ねると、ただ乾燥をさせるのではなく、発酵をさせてより栄養価を高めているようだったので、余計なことはせず、乾燥室にカゴを並べる手伝いだけをした。






 作りのしっかりした戸棚に、密閉とまではいかないが、隙間が殆どない扉。


 重機もないのに、よくこれだけの空間を整えられたものだとつくづく思う。



 これも精霊術という、不思議パワーを使ったのだろうか?



 精霊術は「スキル」とは別物だ。


 しかし有用性は同じか、場合によっては精霊術の方が高いようにも思える。



 なにせ自分の生命力とも言える体内エネルギーを直接変換して力を使う「スキル」と違い、精霊術は霊力と言うエネルギーを精霊に譲渡して力を奮ってもらう。


 その霊力は、自然界に溢れているもので、自分の霊力を使わずとも、一部、あるいは全ての霊力を別の物から取り出して使用することも可能だそうだ。


 精霊術を使う側のリスクは、低いように思える。



 ……と考えていたのだが、術者が分不相応な精霊術を使おうとすれば、精霊の怒りを買ってしっぺ返しを喰らうそうなので、何事にも例外なくリスクというのが付きまとうものなのだと学んだ。



 では何故、化学が発展していないのだろう。


 薬草を発酵させたり、畑に肥料をまいたりするのに。

 なにより、火を使うと言うのに。



 誰も「なぜこういう現象が起こるのだろう?」と疑問に思わなかったのか??


 カノンを見ているとそうは思わないのだが、知能指数が低い人種ばかりが生息している世界なのだろうか。



 あ、だからカノンは話しが通じる人がいなくて、こんな辺境に住んでるとか???


 だとしたらイヤだなぁ。

 野生児や先人類のような理性の乏しいヒトと、分かり合える気が微塵もしないのだが。

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