第5話 魔王の興味
徳川信康か……。
我が娘・徳姫の夫であり、家康の長男である男の名を、久方ぶりに見た。
徳姫より届いたその手紙を、あの徳川の重臣・酒井忠次が直々に持ってきた。
只事では無い。
分かっている。
酒井忠次ほどの男に、これほど重苦しい顔をさせるような事態。
逆に、興味をそそらせる。
嵐の前にあるような空気も、嫌いでは無い。
通常通りの、使者としての口上も無い。
忠次は無言で、手紙を掲げておる。
手紙に目を通す。
夫婦仲の事などどうでも良い。
が、一つだけ、通過させる事の出来ない文(ふみ)があった。
信長が、冷たい声で言い放つ。
「武田との内通の議、誠か?」
信長の言葉に、家臣団に緊張が走る。
浅井、松永に続いて、あの徳川殿までが裏切るというのか。
……いや、家臣たちの緊張は、そういう事では無い。
主君・信長の意を読めない者に、明日すら来ない。それがこの織田家臣団の面持ちであった。
うっすらと笑みを浮かべる信長以外の全員が、この場から逃げ出したいほどの静寂に包まれた。
五分の後。
ただ一言、酒井忠次が放った言葉は、
「我が主人、徳川家康乱心」
またしても、信長以外は同じ顔をしていた。
信長、以外は。
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