第2話「門と、飢えた少女」
少女の名はリア。異世界「ヴェルナ」から来た探索者だった。
ヴェルナでは三十年前から作物の育ちが極端に悪くなり、今では世界人口の六割が慢性的な栄養失調に陥っているという。
「あの扉は、世界中を探して、食べ物がある場所に繋がるはずだったんです」リアは誠の台所で、茶碗に三杯のご飯を食べながら言った。「でも……こんな遠い世界に繋がるとは、思っていませんでした」
誠はしばらく黙って、少女の食べる様子を見ていた。
汚い食べ方ではない。むしろ丁寧だ。ただ、目が必死だった。食べ物が消えてしまうのを怖がるように、箸を置けない。
「——あんたの世界、どのくらいの人間が飢えてる」
「今は……四億人ほどが」
誠はもう一度黙った。
四億人。北海道の人口の三百倍以上だ。それだけの人間が、今この瞬間も腹を空かせている。
誠は立ち上がって、冷蔵庫を開けた。
「食える分だけ食え。明日、俺の畑を見せてやる」
「……え?」
「お前の世界が食料危機なら、何とかできるか考える。何とかできなくても、考えてから言う。農家はそういうもんだ」
リアは箸を止めて、誠の背中を見た。
この男は——今、何を言った。
四億人が飢えていると聞いて、まず「何とかできるか考える」と言った。
「……あなたは、恐ろしくないんですか」
「何が」
「四億人なんて、どうにもならない数字です。私でさえ、口に出すのが怖い」
誠は振り返らずに答えた。
「農家は一粒の種から始める。一粒が増えて、畑になって、畑が広がって、誰かの腹が膨れる。始める前から諦めるのは農家じゃない」
リアはその言葉を聞いて、初めて、泣いた。
旅を出て以来、ずっと堪えていた涙が、温かい台所の中で、こぼれた。
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