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  • 平山さんの「近代文学を取り戻せ」という結びに深く共感します。その実践者として、戦後派の椎名麟三を思い起こしました。貧困・投獄・転向という極限の生活体験から出発しながら、死と自由という普遍的な問いを正面から引き受け、さらにキリスト教信仰へと至った。菊池寛が「生活の余裕の上に芸術は成り立つ」と言ったのとは真逆の場所から、芥川の「瓦礫の中でも唄は歌える」を身をもって実践した作家です。ポストモダンが意味を解体し冷笑へ向かう以前に、椎名はすでに答えを出していたように思います。論争の系譜には直接登場しない作家ですが、平山さんが求める「読者に何かを与える文学」の体現者として、ぜひ読み直されてほしい一人です。

    作者からの返信

    楠本ラリアットさん、ありがとうございます。

     椎名麟三は「永遠なる序章」と「自由の彼方で」の二作品を筑摩の文学全集で昔読みました。どちらも、地に足の着いた作風で、かつ、泥臭い生活者の視点、かつ、真摯に世界と自分を憂う主人公だったと記憶しています。まさしく正しい意味で「理想を追いかける作家」であると思いますし、椎名のような理想主義者の文学は確かに読み返されるべきです。同系統に有島武郎がいるかもしれませんが、彼は晩節を汚しましたし、もっと前なら島崎藤村なども似た系譜かもしれませんが、彼も「新生」の顛末で評価を大きく下げました。
     椎名がキルケゴールに辿り着いたのは興味深いです。ヘーゲル哲学をシステマチックだと批判し、一人ひとりが実存を懸けて神の愛へ最終的に辿り着くべきだ、と言ったキルケゴールは、マルクスとも距離を置く、愛を頂点に置いた哲学者ですね。きっと、多くの日本人には理解しにくい面もあると思うのですが、宗教をひとまず置いておいても、アガペー的な愛の概念は、世界を守っていくために必要な概念でしょうね。芥川龍之介が「ある阿呆の一生」で、神の愛を信じきれない、あのコクトーですら信じた神の愛を!と嘆いていますが、日本人はこの辺を突き詰めて考えるべきかもしれません、ともすれば隣人にいやに冷たい面がありますからね。和を以て貴しとなす、の民族ですが、同調圧力、空気から外れた人間に冷たいところがありますので、そこが克服すべき一つの面かもしれません。それは椎名が信じた愛なのだと思いますね。