総譜への応援コメント
siagleさん、私の企画に参加していただいてありがとうございます。
本作なのですが、語彙の豊かさや、音楽的な比喩を扱おうとする姿勢はとても魅力的でした。ただ、純文学は詩ではなく小説なので、「何が起きたのか」「主人公がどう変化したのか」 という「筋」が読者に伝わる必要があります。
現状の文章は、場面の描写練習や散文としては美しいのですが、物語としての核が比喩の層に埋もれてしまっていて、誰に何が起こっているか分からないのです。筋も読者の理解も不要だ、と振り切るならそれでもいいですが、その方向へ向かうのはお勧めしないです、これだけ書ける才能がもったいないからです。
もしよければ、この作品で主人公に何が起きたのかを、普通の言葉で三行ほどで説明してみてください。それが明確になると、あなたの持っている語彙や文体が、もっと強く「物語」として響くようになると思います。
それではこれからもお互いに頑張りましょうね。
作者からの返信
平山様
丁寧なご講評ありがとうございます。
本作は「自己意識の過剰な肥大と、他者という異物が侵入してきたときの精神と肉体の狂騒的な拒絶反応」を、あえて過剰な文体と音楽の意匠を用いて極限まで描くことを目的とした作品でした。
ご提示いただいた「3行の説明」にまとめるとすれば、以下のようになります。
『他者の生々しい質量に直面した私が、構築してきた美的な自意識を内部から爆破され、狂った泥人形として異形の音楽を鳴らし始める話』
「筋」は比喩の奥に隠したのではなく、この肉体と精神の崩壊過程そのものに置いたつもりでしたが、主催者様のお求めになる「小説の型」とは少し方向性が違ったようです。
貴重なお時間を割いて真摯に読んでいただき、ありがとうございました。
追記
このコメントの内容(特に三行説明)を読んだ人に向けて。ここの内容は現在本文に書かれているものとかなりズレていると思います。
もしかしたらズレていないかもしれません。
何度も本文に改稿を重ねているし、これからも重ねるためです。気にしないでください。
総譜への応援コメント
文芸部へのご参加、ありがとうございます。
「愛想笑いを調律して参りました」という、音楽の言葉で自らを武装する内省的な語り口から、放課後の図書室で少年から差し出された緑の硝子瓶をきっかけに、世界が急激に歪み始める。その一連の心理的・生理的なパニックの描写の生々しさに、息を呑むような緊張感をもって引き込まれました。
■ 全体を読んでの感想
前半で主人公が「総譜」や「アリア」といった高潔な音楽の言葉で防衛しようとすればするほど、後半で「鼻水まで出てきた」「そこに豚がいた」と、自らの醜態を容赦なく剥き出しにしていく自虐の独白が非常にリアルで胸に刺さります。
他者への異常な拒絶と、その裏にある「愛してほしい」という音声にできない飢餓感。少年の「早く隠して。明日後悔するよ、たぶん」というどこか突き放した優しさと、数センチの空隙。洗ったはずの袖口の固さを気にする後日談を経て、ラストで「僕は、私という絶望を、傲慢に鳴らし尽くしたかった」と階段を走って逃げるその激しい幕引きに、ヒリヒリとした思春期の痛切な余韻が目の前に美しく広がりました。
■ お題「省略法」の活用について
本作では、テーマである「省略法」が、主人公が世界のすべてを「聴覚(音)」で捉えるがゆえに、それ以外の視覚的・客観的な事実を引き算する「内省的な偏り」として、極めて効果的に使われていました。
・【少年との間に起きた『具体的な出来事や社会的背景』の省略】
主人公がなぜこれほどまでに他者を拒絶し、体調を崩すほどのパニックを起こすに至ったのか、その過去のトラウマや詳しい事情があえて「省略」されています。この引き算があるからこそ、読者は「過剰に世界の音に過敏になっている主人公の脳内」に直接放り込まれたような感覚になり、図書室の冷房の弱さや、少年の足音が脳髄を打鍵する感覚を、より劇的に追体験できたように思います。
・【図書室の窓の向こうで少年が話していた『内容』の省略】
後日、図書室の小窓の向こうで少年が誰と何を話し、なぜ笑っていたのかという「会話の内容」が完全に「省略」されています。もしかしたら主人公の噂をしていたのかもしれないし、全く関係のない世間話だったのかもしれない。その内容をあえて明かさない引き算によって、主人公の「誰かに気づかれている気がする」「また、鳴っちゃう」という強迫観念のような恐怖の輪郭が際立ち、読後も心拍数が上がるような不穏な余韻が胸に残る見事な構成になっていると感じました。
■ 最後に
省略法という技法を、説明的な背景を隠すことで、むしろ「言葉にできない自意識の暴走と、肉体のきしむ音」をダイレクトに響かせるための、知的なカメラワークとして使いこなされた素晴らしい作品をありがとうございました。
また部室にて、あなたの紡ぐ、五感に静かに染み入る美しい物語に出会えるのを心より楽しみにしております。