第16話 リーリャ、ワインを少しだけ

「リーリャが王女領に同行するなら当分我が国の小麦は大丈夫でしょうな。喜ばしいことだ」


 旅用の服から旅用に王女として必要最低限の装飾のなされたドレスに着替えたフィリーは、同じく正装に着替えたリーリャと共に談話室へとやってきていた。ふたりして横に並ぶ前には伯爵と夫人、そして跡継ぎである長男が座っていた。


「ええ。リーリャには時間があるときに周辺諸領も含めた土地の浄化に回ってもらいます。ただ、リーリャには他に仕事がありますので」

「それでもですよ。東の領主達は皆喜んでおります。しばらくは領地に滞在すると考える領主も多いようですから仕事は絶えませんな」

「少しはお手をかしてくださってもいいのですよ?」

「我が家はあくまで中立の身ですから。もし我が領で問題があったら陛下の騎士を貸し出しては貰えるのですか?」

「状況にもよりますね。まずは教会に頼んではいかがですか?」

「教会に頼んだところで中途半端な聖女が送られてくるだけですな。一番の腕利きを追い出したのですから」


 そう言われるとフィリーは若干嫌そうな顔をするが、すぐに表情を戻す。夫妻は気がついているようであるが、長男は気がついていないらしい。それから数秒だけ間があったのを見て、リーリャは自分の仕事が増えそうだということを察した。さすがのフィリーも伯爵の前には経験不足である。


「……ところで、今年のワインはどうですか?」

「今年は日較差が大きかったですからかなりいい感じです。ただ、少し甘すぎると思います」


 フィリーの質問に対しては長男が返す。長男はかなり日に焼けているようで、伯爵はワイン製造の一部を彼に任せているということがわかる。


「それをどうにかするのが我々の仕事ですな。今は息子にやらせてみているんだが、まだまだひよっこだ。夕食には去年のワインを出すつもりですから、是非とも楽しみにしておいていただきたい」

「それは楽しみです」

「そうそう、リーリャはお酒があまり得意ではないだろ?」

「あ、気がつかれていましたかニャ」

「さすがにな。あれ以降アルコールが苦手な人でも飲めるようにと飲みやすいワインを研究しているんだ。試してくれないか?」

「わかったニャ。楽しみにしておくニャ」


 そう言うと、伯爵は満足そうに頷いた。長男は少し緊張した面持ちになる。おそらく彼もこの仕事を手伝ったのだろう。夫人はその様子を見ながらニコニコと笑っていた。







「これが新しいワインですか」

「発酵の時間を短くしたんです。度数が低いですので飲みやすいと思いますよ」

「リーリャ、飲んでみて」


 夕食の時間、香草とともに焼かれた鶏肉とともに出されたのは少しの白ワイン。軽く匂いを嗅いでみると、通常のワインより甘い香りがする。


「さすがに鼻がいい」

「はい。甘めニャね」

「発酵時間を短くしてある。かなりフレッシュな味になっているだろう」


 リーリャにとって、ワインの渋みはあまりおいしいものではない。味の強い肉や魚と合わせても打ち消すことができないほど強い。そして単純にアルコールに弱いのだ。

 ゆっくりと匂いを嗅ぎながら少しだけ口に含むと、香るのは白ブドウのさわやかな香り。炭酸も弱めでかなり飲みやすい。


「おいしいニャね」

「ほんと、ジュースみたい。これならリーリャも呑めるわね」

「そうニャね」

「よかった。これで一安心だ。確かに獣人の敏感な舌にとってワインの渋みは我々よりも強いだろう。以前ワインを出したときにあまり進んでいなかったから。リーリャのお陰でこうして苦手な人でも飲みやすいワインができた」


 リーリャ以外の前には2つのグラスが置かれていて、1つはリーリャと同じもの、もう1つはリーリャがあまり得意ではない通常の赤ワインである。微発泡の白ワインはかなり飲みやすいようで、皆結構な量を飲んでいる。

 その中でリーリャはちびちびと呑んでいた。調子に乗って飲み過ぎると酔っ払って大変なことになるからだ。いくら度数が低いとは言え、弱いものは弱いのだ。

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