石人形でも人を救えるか〜天使とゴーレムのヤクソク戦記〜

@namari600

0年①

『いいか。お前は人を守るゴーレムとなれ。約束だ』


石と鉄で作られたこの体に、製作者クリエイターの言葉は深く刻み込まれている。

『ヤクソク』とは何なのだろうか。

その意味すらわからず、製作者クリエイターと再開することも叶わず、辺境の小さな村で俺は日々を無意味に過ごしていた。


俺は村の外れに身を置き、村人たちが笑い合う姿を眺めるのが好きだった。自分には決して混ざれない輪だとわかっていながら、どうしようもなく惹かれるのだ。

その日も、子供たちが遊ぶ様子を俺は遠目に見ていた。


「アラン、ボール投げて!」

「あぁ」


転がってきたボールを投げ返すと、まだ幼い少年たちは手を振ってどこかへ行ってしまった。

だから――目の前に「羽の生えた女」が降りてきたとき、俺は思わず反抗的な態度をとってしまった。


「あなたが……この時代のゴーレム――アランね?」


振り向くと、そこに立っていたのは一人の少女だった。いや、少女と呼ぶには気配が違う。背に純白の翼を広げ、薄布のような衣を纏った彼女の姿は、月の光を集めて形にしたかのように神秘的で、そしてどこか浮世離れしていた。


「……誰だ、お前は」

「セラフィーナ。天界から来た天使。あなたに、少し話があるの」


唐突に名乗られ、俺は言葉を失った。天使だと?

子供の絵本にしか載っていない存在を自称する彼女に、俺は石の顔をしかめることしかできなかった。


「話とはなんだ」

「二百年後のことよ。この地は悪魔の大進行に飲み込まれるの。人も街も国も、日常もすべて燃やし尽くされるわ」

「悪魔の……大侵攻?」


あまりにも話の内容がいきなりすぎる。

彼女の声音は真剣だった。だが、俺の中では疑念の方が勝っていた。


「でたらめを言うな。それなら、俺に協力を求める前に、何か証拠を見せてみろ」

「証拠? なら、ひとつ教えてあげる」


セラフィーナは少し悩むような素振りを見せると、指をぱちんと鳴らした。

空中に平べったい黒い物体が映し出される。


「数刻後、あの子供たちが遊んでいる場所で爆発が起きるわ。悪魔が仕掛けた時限式の魔法。この黒いのよ」

「……」

「止められるのは、ここにいるあなただけ」

「……」

「止めるも止めないもあなた次第。どうする?」



俺は一瞬迷った。だが次の瞬間には地を蹴っていた。


広場では子供たちがボール蹴りに夢中になっていた。

その下、土に紛れて光る魔法陣がじわじわと赤く輝き始めているのが見えた。


「アラン?どうしたの――」

「下がれ!」


 俺は叫び、子供たちを抱きかかえるようにして魔法陣から遠ざける。次の瞬間、轟音と閃光。爆風が背中を叩き、俺の外殻が軋んだ。ボールが吹き飛んでいく。


煙の中で泣き叫ぶ子供たちを見て、ようやく理解した。

セラフィーナの言葉は嘘ではなかったのだ。


「ね、言った通りでしょ?」


耳元で優しい声が聞こえた。


集まってきた大人達に子供たちを預け、俺は人気のない場所に移動した。彼女はふわりと俺の横に降り立ち、にっこり笑う。


「……証拠は受け取った」


俺は深く息を吐く。いや、俺に肺はないのだが、そんな気分だった。


「ひとつ、聞かせてくれ。どうして俺が選ばれたんだ?世界にはゴーレムなら山ほどいると聞いたが?」

「その答えで参加不参加を決めるようなゴーレムに、このお願いをする気はないわ」

「……そうか」


次の瞬間、俺は拳を前に出していた。


「いつだ」

「?」

「どうすれば悪魔の進行を防げる?俺はいつ、何をすればいいんだ」


一瞬、呆けた顔をしたセラフィーナはにっと笑うと、空中にこの村周辺の地図を映し出した。

村外れにある湖に赤い丸がついている。


「次の出番は――明日の夜ね。200年後の悲劇はここから始まるの」


――ゴーレムと天使。出会いは不意打ちで、信用には程遠かった。だが、俺の心に小さな火が灯ったのも事実だった。


 俺はまだ知らない。この出会いが、二百年後の未来をも揺るがす大きな「約束」に繋がっていくことを。

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