第4話 鬼退治の始まり

手紙を読み続けるとお父さんの前世の桃太郎時代のことが書かれとった。


『あんたも知っとるじゃろう、桃太郎の話を』という文字の下に『ワシも最初は皆と同じように、鬼は悪い奴らじゃと思っとった』と続いとる。


ワシは桃太郎の絵本を思い出した。悪い鬼が人々を困らせて、桃太郎が正義の味方として鬼を退治する話。お父さんが読んでくれる時はいつも鬼をやっつける場面で「やったね」と言ってくれとった。


『村の人たちが「鬼を退治してくれ」と頼んできた時、誇らしかったんじゃ』という行を読んでワシはお父さんの気持ちがわかる気がした。みんなに頼りにされて、正義の味方になれるなんて、きっと嬉しかったに違いない。


『正義の味方になれると思うとったけー』という文字を見た時、ワシは自分のことを思い出した。小学生の頃、いじめられとる子を助けた時の気持ちと同じかもしれん。


でも次の行を読んだ時、ワシの胸がざわざわした。『でもあんたにはワシの本当の体験を知ってもらいたいんじゃ』


本当の体験って何じゃろう。絵本と何が違うんじゃろうか。ワシは手紙を持つ手に汗をかいとることに気がついた。


『犬と猿と雉を仲間にして、みんなで鬼が島に向かった』という文字を読んでワシはほっとした。これは絵本と同じじゃ。


でも『でも鬼が島に着いた時、ワシは何かおかしいと思うたんじゃ』という行を読んで、ワシは緊張した。何がおかしかったんじゃろう。


『鬼たちは確かに強かったが、なぜか逃げ回っとった』という文字を見てワシは首をかしげた。鬼が逃げる?絵本では鬼は戦いを挑んでくるはずじゃ。


『そしてワシが一番驚いたのは、鬼の子供たちが泣きながら隠れとったことじゃった』という行を読んだ時、ワシの心臓がドキドキした。鬼の子供?泣いとる?


そんなことは絵本には書かれとらんかった。お父さんの前世の桃太郎が見たものは、ワシが知っとる桃太郎の話とは全然違うもんじゃった。


手紙を胸に抱いてワシは考えた。お父さんが本当に桃太郎じゃったなら、きっと絵本にはない本当のことを見たんじゃろう。そしてその本当のことがお父さんを苦しめとるんかもしれん。

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