第13話

 その晩の家での夕食の席。

 腹は減っていなかったが腹の中は決まっていた。

 もう自分も家族に全て話そうと思った。A田さんの件で踏ん切りがついたのだ。

 そもそも、会社に見切りをつけて転職活動を始めるにしても、まずはこの状況を家族に打ち明けなければ始まらないわけで。

 皆が席についた。

 珍しく息子は私の横じゃなくて向かいに妻と並んで座った。べつにいいのだが。

 いただきますをして、「ちょっと聞いてもらいたいことがあるんだ」と言おうとしたら、先にそれを言われてしまった。── 息子に。

 息子はいつになく神妙な顔つきだ。

「なんだいったいどうしたんだ……」と私は二人を見る。妻も何か知っているようだ。

「さあ、話してみなさい」

「うん、実は……、ボクのクラスで少し前からイジメが流行っててさ……、ボクはそういうのからは距離を置いてたんだけどさ、イジメに加わらないならお前をイジメるぞって言われて……、なんか困ってるんだよね……」

 肩をすくめて申し訳なさそうに眉を寄せて話す息子。

「学校や担任の先生は把握しているのか?」

 それに対しては息子は首だけを振った。妻が言葉を挟む。 

「わたし、学校に話しに行ってみようと思うの」

 わたしは座り直して姿勢を正した。

「パパも行こう。君に任せっきりも良くないし。新しい部署はわりと時間に融通が効くんだ」

「そう、それなら助かるわ」

 黙って聞いていた息子が顔を上げた。

「そこまではまだしなくていいよ。大丈夫だからさ」

「無理に行かなくたっていいんだぞ。会社じゃないんだから」

 ── 会社じゃないんだから。なんでそんな言い方をしてしまったんだろう。

「うん、わかってるよ。そのときになったらそうする。あーあ、でも、ほんとにみんなガキでやになる。早く大人になりたいなー。ねえ、パパ、大人になればそんなくだらないことないよね?」

 しっかりとその目に応えねば……。しかし……、私は……。

「もちろんだ。大人の社会にはそういったことはない」

 もっともらしくうなずいて見せた。

 安心した顔の息子を見るのがつらかった。

 妻が鍋の蓋を取り、「さあ、シチューが冷めないうちに食べてしまいましょう」と言ってよそってくれた。

 湯気がうわっと立ち昇ってきた。 

 ── 冷めたメシを食う。

 それが会社だ。

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