第3話 名付け
「それで? まずは弁明があれば聞きましてよ、マスター?」
目の前の“現実”から逃げ出そうとしていた俺に、腕を組んだ美少女が仁王立ちで告げた。
可憐な顔立ちに似合わない圧。
間違いない、怒ってる。やばい。俺がマスターのはずなのに、逆らっちゃいけない気がする。
「……スマン、びっくりしすぎて現実逃避してた」
「まぁ、そうでしょうね」
「自分が十体目のイレギュラー保持者になるなんて思わないだろ!」
「ふふっ、つまりわたくしが特別すぎて驚いてしまわれたのですね! まぁ、無理もありませんわね!」
「お、おう……」
なんでこんなに自己肯定感が高いんだコイツ……。
もしかして、イレギュラーって全員こんな性格なのか?
「今回は特別に、不問にしてさしあげます!」
どうやら許してもらえたらしい。
「それじゃあ……名付け、か」
「待ってましたわ! わたくしにぴったりの名前をくださいまし!」
まずい、下手な名前を付けたら何をされるかわからん。
黒曜石のような髪に、白磁のような肌。夜空を思わせる気品。
頭に浮かんだのは——日本の昔話。
「決めた。今日からよろしくな、カグヤ」
「……! はいっ! よろしくお願いしますわ、マスター!」
どうやら気に入ってもらえたようだ。胸をなで下ろす。
「それでカグヤ、ステータスってどんな感じなんだ?」
「そうでした! 私のステータスは、マスターの所有AI’s一覧から確認できますのよ?」
「マジか……。初AI’sがイレギュラーだったから、そんな基本的なことすら知らなかった……」
慌ててメニューを開くと、そこには信じがたい数値が並んでいた。
『カグヤ』
タイプ:バランス(イレギュラー)
装備:なし
レベル:10
能力 数値 評価
力 1250 S
敏捷 3800 SSS⁺
耐久 1500 S
知力 2000 SS
器用 1200 S
スキル:弱点看破/ステルス/索敵A
スペシャルスキル:
※レベルにより発動率上昇。発動時、対象AI’sに自我を付与。付与された自我は消去不可。
「……いや、これ、バケモンじゃねぇか」
レベル10でこのステータス。
そして“御魂卸”——イレギュラーによるイレギュラーの再生産。
もし本当に成功すれば、世界の均衡なんて簡単に崩れる。
「いかがですか? わたくし、すごいでしょう!」
能天気に胸を張るカグヤ。かわいいけど、状況は洒落になってない。
「やばすぎるだろ……これ」
攻撃力もスピードもバランス型とは思えない。
まるで“創造神”みたいなスキル構成だ。
「カグヤ、もし別のAI’sにこの御魂卸を使ったらどうなる?」
「今のレベルですと……普通に使えば成功率は1~5%ほどですわね!」
「10%未満か。低すぎるな。先にレベル上げを——ん? 今なんて言った?」
「“普通に使えば”ですわ♪」
「……それ、どういう意味だ?」
「何事にも抜け道や裏技がある、ということですわ。
このスペシャルの真価を発揮させるには、マスターがわたくしを創った時のように——完全手作業のマニュアル制作中に、完成直前で使用すること。
その場合の成功率は、なんと100%ですの!」
「……は?」
あまりの馬鹿げた性能に、言葉を失った。
CALでAI’sを生み出す方法は三つある。
一つは——金で解決するガチャ方式。
一回一万円から。夢はあるが、現実は地獄。
二つ目は——半自動生成。
素材やパラメータを選んで制作。無難だが、凡庸。
そして三つ目。
変人しかやらない、完全手作業のマニュアル制作。
集めた素材を削り、パーツを組み、意識を注ぎ込み……。
完成度と精度が極めて高い場合に限り、ごく稀にAI’sが“覚醒”する。
その確率は一万体に一体、あるいはそれ以下——まさに奇跡。
――俺は、その奇跡を引き当ててしまった。
「はは……ふざけんなよ。こんなチート性能、どう扱えってんだ……」
天才でも、英雄でもない俺が生んだ存在。
だが、その偶然が、世界の均衡を揺るがす引き金になるなんて——
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