第16話 カノンの憶測

 「ふぁ~あ」


 朝の首都。

 アルタはあくびをしながら歩く。


(昨日もちょっとやりすぎちゃったな……)


 大きな古代の遺物アーティファクトを入手して、数日。

 アルタは日常に戻っていた。

 今朝もつい明け方まで錬金術に熱中してしまったようだ。


 そんな中、目も覚めるような光景が視界に入ってくる。


「あ、あぶない!」


 視線の先には、おばあちゃん。

 しゃがんだところに、植木鉢うえきばちが落ちそうになっている。

 アルタはすぐさまその場をった。


「セーフ!」

「はえっ?」


 間一髪。

 おばあちゃんの頭に植木鉢が当たる寸前、アルタはそれをキャッチ。

 振り返ったおばあちゃんは、ようやく状況を察した。

 

「た、助けてくれたのかい。ありがとうね」

「いえいえ。でも、この棚はグラついて危ないかも」

「そうかい。だけど、もう腰が痛くて動かせなくてねえ」

「あ、そういうことなら!」


 アルタは棚に手を触れた。

 すると、風の精霊が棚に込められていく。

 危なくないよう、量はほんのわずかに留めて。


 アルタは目を開くと、軽く棚を動かした。

 

「これなら動かせると思うよ」

「ほ、本当じゃ。これが例の錬金術というやつかい?」

「そうです」


 アルタは錬金術を使ったのだ。

 今代わりに動かしてあげてもいいが、それでは今後の融通が利かない。

 おばあちゃんがいつでも自由に動かせるよう、風の力で軽くしてあげた。


 すると、様子を聞いていた周りからも声が上がる。


「お、アルタ君じゃないか! この前は助かったよ!」

「こちらもいつもありがとうねえ」

「アルタ兄ちゃん、おはよう!」


 すでに知り合いだった周りに、アルタも笑顔で返す。


「あはは、いつでも力になりますよ」


 首都に来ても、アルタは行く先々で人を助けていた。

 村で育った癖とお人好しが働いた結果だ。

 錬金術が広まるきっかけは講義だったが、アルタの優しい一面もその要因の一つである。


 すると、後ろから声がかかった。


「ふふっ。今日もアルタらしいね」

「あ、リゼリア」


 リゼリアだ。

 アルタの善行に微笑むが、ちらりと時計を確認した。


「けどもうすぐ時間だよ。一緒に行こ」

「そうだね」


 二人はカノンに呼ばれていたのだ。

 目的は聞かされていないが、そのままアカデミーへとおもむいた。

 この後、衝撃の事実を知るとは夢にも思わず──。





「忙しい中、集まってくれてありがとう」


 アカデミーの生徒会室。

 お茶を注ぎ終え、カノンは座椅子に腰かける。

 集まったのは、そうそうたる面子だ。


「カノンが私を呼ぶなんて」

「お姉さんの温もりが寂しかった?」

「なんかいつも来てる気がする」

「わふっ!」


 リゼリア、ライセナ、アルタ、アモフ。

 英雄三人にアルタ、幻獣種という顔ぶれだ。

 話だけにしては豪華すぎる。


 すると、アルタは早速カノンに尋ねた。


「今日はなんの話?」

「実はここ数日、錬金術について調べていたの。一旦推測がまとまったから報告をしようと思って」

「……!」

「じゃあ、もったいぶらずに結論から言うね」


 カノンは静かに、だがしっかりと口にした。


「錬金術は、失われた古代の技術かもしれない」

「「「……!」」」


 告げられたのは、衝撃の推測。

 アルタ達が息を呑む中、カノンはいくつもの本を広げていく。

 ここ数日で読み漁っていた参考資料だ。


「これらはアカデミーの禁書庫に残っていた資料だよ」


 だが、手に取ると違和感を覚える。

 リゼリアは首を傾げた。


「本というか、日記帳?」

「そうだね。ここにあるのは日記とか、遊びで書いたものばかり。それもかなり古い記録のね」

「言い方は悪いけど、もっとちゃんとしたものは無いの?」


 当然の疑問だ。

 対して、カノンは首を横に振った。


「錬金術に関する公的な文書は、一つも見つからなかった」

「え?」


 カノンはうつむきつつ答える。


「これは、ハッキリ言ってありえない・・・・・。都立アカデミーは世界でも有数の施設。例え机上の空論だろうと、多少の文書は見つかるはずなの」

「つまり、どういうことなの?」

「わたしは──」


 鋭い視線でカノンは口にした。


「何者かに意図的に消されたと考えてる」

「「「……!」」」


 周りが目を見開く中、カノンは推察を共有する。


「この日記帳とかは、公的な文書じゃない。だから、その何者かの検閲けんえつも免れたんだと思ってる」

「──うん、その話は正しいかも」

「「「……!」」」

 

 そこでようやくアルタが口を挟んだ。

 アルタは資料に目を通しながら頷いている。

 

「少なくとも、ここに書かれているのはどれも立派な錬金術だよ。俺が保証する」

「やっぱりそうなのね……」


 それも踏まえ、カノンは現状に言及した。


「錬金術は意図的に消された。だから首都に広まってないんだと思う。こんなに有用な技術が引き継がれないのは、さすがに不自然すぎる」

「でも、どうしてそんな必要が?」


 リゼリアの質問には、カノンは視線を逸らす。

 

「不都合があったか、何か……そこまでは」

「そ、そう」


 カノンの歯切れが悪い。

 悪い錬金術師がいた、禁断の技術だった、など。

 色々と考えられるが、アルタの前ではネガティブな事を言いにくかった。


 すると、ライセナが口を開く。


「アルタ君のおじいちゃんは?」

「あの方は、故郷でひっそりとやっていたから見つからなかったんだと思う。もしくは、見つかれば消されると知っていたからこそ、故郷で密かに次代へ引き継いだ」


 カノンは視線を移す。


「アル君、あなたに」

「……!」


 アルタは規格外だ。

 錬金術以外にも、戦闘、精霊に関してなど、あらゆる才能を持つ。

 そんなアルタの力を見抜き、おじいちゃんは錬金術を託した可能性がある。


 カノンはうなずくと、資料を閉じた。


「ここまでが数日で得た見解だよ。あくまで憶測の域を出ないけど、そう考えれば全ての辻褄つじつまが合う」


 その瞳はこれが真実だと信じているようだ。

 リゼリア達もカノンの優秀さは理解しているが、一度には受け止めきれない。

 それほどにきょうがくの内容だった。


 すると、アルタは口を開く。


「そっか。そうかもしれないね」

「アル君……」

「でも、これだけは言える。おじいちゃんの錬金術は悪いものじゃない」

「!」


 アルタはいつもの明るい表情を変えない。


「みんなの笑顔にして、人をワクワクさせて。俺はそんな錬金術に憧れたんだ」

「……! そうだね」


 周りはそれぞれ、自分の神器を見つめる。

 全てアルタにもらった大切な物だ。

 これを作れる錬金術が悪いものとは思えない。

 

 だが、アルタもしっかり向き合っていた。


「だからこそ、錬金術が消された理由を探さないと。俺も一人の錬金術師として」

「さすがアル君。わたしも協力するよ」

「ありがとう」


 カノンに続いて、ライセナ達もうなずく。

 アモフも理解したかは置いておき、わふっと返事する。

 全員がアルタに協力するつもりだ。


 すると、カノンは声色を変える。


「そのためにも、今はとにかく情報が必要だわ。おそらくかぎになるのは、先日の“大きな古代の遺物アーティファクト”」


 光の先で入手したモノの事だ。

 アルタによれば、あれは複数を組み合わせて完成するという。


「あれを『古代の遺物アーティファクト部品パーツ』と呼ぶことにするわ。他の部品が見つければ、また何か判明するかもしれない」


 それにはライセナが情報を付け足す


「あのタイプは世界でも見た事がないわ。おそらく他の部品はまだ発掘されていない」

「じゃあなおさら、まずはそれを集めるところから始めましょ」


 これには全員が合意する。

 次の目標は、『古代の遺物アーティファクト部品パーツ』集めだ。

 カノンは具体的な指示を出す。


「けど、今までみたいに団体行動だと時間が取られる。今は多少のリスクを取ってでも、分かれて行動するべきだと思う」


 この目標は迅速に動くことが求められる。

 他の者に先を越されてはいけないからだ。

 さらに、錬金術が広まっている現状は、何か起きてもおかしくない。


 その前に真相を解明し、解決手段を考える必要がある。

 カノンはそれを考慮して、人を割り振った。


「アル君には一番目ぼしい場所に行ってほしい。精霊に聞く事もできるから」

「了解」

「じゃあアモフも一緒に連れるとして、わたし達の中からは一人だけ行こう」


 すると、アルタは周りに目を向けた。


「じゃあ、俺と行きたい人?」

「「「はい」」」

「いや全員じゃん。カノンも手挙げてるし」


 そうなれば、やることは一つ。


「「「じゃんけん──」」」


 こうして、アルタ達は錬金術の真相を確かめるべく、行動を開始した。

 まず集めるのは、『古代の遺物アーティファクト部品パーツ』だ。





 数日後、第二層。


「あれが階層ボスだね」


 アルタは階層ボスに向き合っていた。

 その隣にはアモフと、ライセナ姉さん。


「わふっ!」

「行きましょうか」

「ギャオオオオオオ……!!」


 アルタ達の錬金術の真相を巡る行動が始まった──。

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