第11話 伝説の講義

 「いよいよかあ……」


 アルタは控えめにつぶやく。

 これから入る大部屋の前に立ち、プレッシャーを感じていた。


 今から行われるのは、アカデミーでの初講義だ。


(緊張するなあ……)


 細い目のアルタはこうなった経緯を思い返した。


────


 三日前。


「アル君、おめでとう!」


 生徒会室に呼び出されたアルタは、カノンに告げられた。

 

「アル君の初講義が決まったよ!」

「……ついにきたか」


 フェンリルの一件から数日。

 アルタ達はゆるりと日常を送っていた。

 いや、ゆるりとではないが。


 カノンは新聞を広げ、ほおゆるめる。


「『新たな英雄候補、次はフェンリルもペットに』だってさ! この話題があったから、アカデミーもすぐに時間を設けたみたいだよ」

「光栄はあるけど……」

 

 案の定、フェンリルの件は大きな話題になった。

 幻獣種の目撃自体が数年ぶりなのに、アルタは子を授かったのだから。

 そんなフェンリルの子──アモフは、アルタに飛びつく。


「わふっ!」

「おっと! はは、相変わらず元気だなあ」

「わふ~」


 アモフは正式にペットの認可を受け、普段から一緒にアルタと出歩いている。

 その度に騒ぎは起こってしまうが。

 アルタはアモフを撫でながら、話を戻す。


「講義って何をすればいいの?」

「内容は講師に一任されるわ。でも、やっぱアル君なら錬金術じゃない? 広めたいって言ってたよね」

「それはそうなんだけど……」


 しかし、アルタは頭を悩ませる。


「人に教えるって初めてだからなあ」

「そっか。誰でも出来るってわけじゃないんだよね」

「うーん、どうだろ」


 今までのアルタは、錬金術を黙々とやり続けてきただけ。

 いわば職人気質だ。

 すると、思考を巡らす内にある人物に行き着いた。


「そういえば、最初は楽しさから教えてもらったっけ」


 思い出したのは、おじいちゃん。

 アルタの錬金術の原点だ。


 おじいちゃんの趣味が気になったのもあるが、アルタは楽しさを教えてもらって初めて錬金術にハマった。


「楽しさを見せるのがいいのかな」

「アル君らしくていいわね! じゃあ講義の予約しておくね」

「わかった」


 こうして、アルタの初講義が決定した。


────


 そして、迎えた講義の当日。


(アモフを連れてくればよかった)


 講義のため、アモフはお留守番。

 あのモフモフでプレッシャーを癒したいが、そう言ってられず。

 アルタは意を決して、ガラッと扉を開けた。


「ど、どうも──」

「「「うおおおおおおおおおおおおっ!」」」

「……!?」


 その瞬間、教室は大きく盛り上がる。

 アカデミーの学生たちが思い思いに声を出したのだ。


「あれが話題のアルタさんか!」

「次の英雄に最も近いと言われてる!」

「会長の幼馴染なんだよね!」

「ちょっとかわいいかも?」


 ワイバーンの件に、フェンリルの騒動。

 首都に来てから話題が尽きないアルタは、今や注目の的だった。

 アカデミーで一番大きな教室が満員で、立見席まで埋まっている。


「は、ははは……」


 アルタは照れくさくもきょうだんに着く。

 だが、すぐにぎょっとした。


(──って、なんでいるの!?)


 目を向けたのは、真ん前。

 最前列の中心に、見知った顔が陣取っていた。


「アル君の晴れ舞台は見逃せないよ」

「勉強させてもらいます」


 会長カノンと、副会長レグナスだ。

 カノンはギンギンの目で続ける。

  

「権力は使ってないから安心して。ただ早朝から並んでただけからねぇ、へへ」

「それはそれで怖いよ……」 


 そんなカノンは放っておくとして。

 時刻を確認し、アルタは講義を開始した。


「で、では講義を始めますね」

「「「よろしくお願いします!」」」


 まずは、錬金術を定義づける。


「錬金術とは、“道具に精霊の力を込める技術”です」

「「「……っ」」」


 未知の技術にアカデミー生は興味津々だ。

 だが、すぐに耳を疑う。


「ということで、まずは精霊の化身を浮かばせます」

「「「……!?」」」


 アルタの背後にぶわっと化身が出現した。

 精霊を具現化させた存在だ。

 それにはすかさずツッコミが入る。


「ちょっとまってください!」

「えっ」


 手を上げたのはレグナスだ。


「失礼は承知ですが、それが出来たら苦労はしません! 参考になるとは……」

「あ、そうなんだっけ」


 レグナスには、誰もがうんうんと賛同する。

 魔法の知識はとぼしいアルタは、うっかりしていた。

 すると、レグナスから質問が続く。


「改めてですが、アルタさんはどうやってその領域まで? 四つの精霊を使役するなど聞いたことがありません」

「魔法はよく分からないけど、考え方はちょっと違うかも」

「え?」


 アルタは指先に、ふっと精霊を可視化させた。


「俺は精霊を“使役”してるつもりはなくて。なんていうか、友達かな」

「……!」

「日頃から精霊に耳を傾けて、触れてあげる。そうすると、色々と聞こえてきたりするんだ」


 アルタの周りに一つ、また一つと、綺麗な光が集まってくる。


「“僕が力になりたい”とか、“私が力を貸したい”とか。俺はそれに合わせて、精霊を道具に吹き込む」

「精霊の声を……」

「ほら、集まってきた」

「……!!」


 気がつけば、たくさんの光が集まってきている。

 火・風・氷・雷と。

 また、同じ属性にも濃淡や強弱がある。


 精霊が可視化されているのは、とんでもない密度になっているからだ。

 多種多様な光は、ぽわんぽわんとアルタの周りを囲んでいた。

 まるで──“精霊に愛されし者”のごとく。


 その姿に、生徒たちは心を動かされる。


「考えたこともなかったな……」

「我々は精霊に寄り添ってなかったかもしれない」

「精霊側もアルタさんに力を貸したくなってるのかな」

「だからあれほどの力を使えるのか」

「素敵……」 

 

 精霊は使役するもの。

 そう教えられてきた彼らからすると、常識をくつがえされた気持ちだ。

 

 ちなみに、後の世界では「精霊を愛しなさい」との基本原理が広まる。

 その始まりが、このアルタの講義である。

 と、そんな未来の話は置いておき、アルタは授業を進める。


「じゃあ実際に、いつもの一連の流れをやってみます。今回は靴を作ります」


 取り出したのは、いくつかの靴の素材。

 まだ形も整っていない。


「ものづくりも好きなので、普段は一から作ることが多いです。自分でやると細かい調整とかもできますからね!」


 アルタは素材を手に取りながら、まずは靴の形を整え始める。

 アルタの錬金物の中でも、【疾風の靴ウインド・ブーツ】が一番有名だ。

 それを加味してのチョイスだろう。


 すると、アルタは生徒たちに顔を向けた。


「ここは少し時間かかるので、何か聞きたいこととかありますか」

「は、はい!」

「じゃあ、そこの方」


 手を上げた女子生徒を当てると、質問が飛んでくる。


「アルタさんの得意な武器種はなんですか。作る時と、使う時で!」

「作るのは基本なんでも。使う時……も、あんまり意識してなかったかも。自分で試す段階で一通りは扱えるようにしてるので」

「一通り!?」


 基本、アルタはどんな武器でも扱える。

 これも何百・何千と、様々な武器種を作っては試してきたからだ。

 すると、カノンも懐かしむように微笑ほほえむ。


「わたしの神器も、アルタが最初に使い方を教えてくれたもんね」

「そうだったね」

「「「……!?」」」


 それには生徒たちも度肝を抜かれる。


「会長の銃はアルタさんが教えたのか!?」

「英雄に教えるってなんだよ!?」

「てことはリゼリアさんも……?」

「だからあんなに強かったんだ!」


 困惑はもちろんあるが、同時に納得感も生まれる。

 先日のレグナス副会長との決闘では、あまりに戦闘慣れしていたからだ。

 だが、アルタは慌てて両手を振る。


「いやいや、今ではカノンの方が扱えてますから!」

今では・・・ね」

「そ、そういうつもりで言ったんじゃなくて~!」


 アルタは謙遜けんそんするも、自ら墓穴を掘る。

 またも強さの秘訣が知れ渡った瞬間だった。

 そうこうする内に、アルタは靴の形を整えた。


「で、では改めて。今からこの靴に精霊を宿します」


 錬金術の真骨頂だ。

 アルタが両手を向けると、辺りから黄緑色の光が靴に集まっていく。


「錬金」

「「「……!」」」


 やがて、靴そのものが黄緑色に光る。

 成功だ。

 アルタは靴を掲げると、生徒たちに見せた。


「話題になってた【疾風の靴ウインド・ブーツ】のようなものです。性能はかなり抑えめにしましたが」


 その瞬間、教室が歓声に包まれた。


「「「うわああああああああっ!」」」


 ここまでに見せた、精霊に愛された心、ものを作る器用さ、唯一無二の力。

 それらが組み合わさった技術の結晶だ。

 だが、席のどこからか思わぬ声が聞こえる。


「あんなの100万ルピでもほしいぞ」

「いいや、俺なら150万は出せる」


「……ん? みんな?」


 誰かが言い出したことをきっかけに、生徒たちで勝手にオークションが始まった。


「本当にもらえるなら300万!」

「ぐっ、350万だ!」

「ええい420万!」


「……!?」


 ちなみに、この国の平均月収は30万程度。

 王立アカデミーにはボンボンも多いので、田舎者のアルタにとっては頭がクラクラする金額だ。


 それでも金額は大きくなるばかり。

 そんな事態は、一人の者によって収められた。


「5000万ッ!」

「「「……!!」」」


 カノンがバンッと机を叩いて立ち上がった。

 英雄の懐を使い、けたちがいの数字で。

 カノンは鬼の形相を浮かべている。


「アル君の物は渡さない!」

「あの、普通に作ってあげるのに……」


 その後ろでアルタはただ一人困惑していた。


 そんなこんながありつつ、アルタの初講義は終了。

 色んな意味で、“伝説の講義”として語られる結果となった。


 ちなみに、争いの火種になるので、靴はアカデミーに寄贈した。

 競り勝った(?)カノンには、美味しい店をごちそうになるアルタであった。





 講義終了後、生徒会室。


「まさか、あんな事態になるとはなー」


 カノンはお茶を注ぎながらつぶやく。

 対面のアルタは苦笑いだ。


「カノンが一番燃えてたんじゃ……」

「いや全然」

「…………」

 

 すると、アルタは足元のアモフを持ち上げる。


「……」

「……わふ」


 二人して無言で見つめ合っていた。

 そんな中、カノンは生徒会室に届いていた一枚の資料に目を通す。


「あ、また発見の報告が届いてる」

「なんの?」

「『古代の遺物アーティファクト』って呼ばれる、昔の道具の欠片よ」

「へー!」


 アルタは目を輝かせるが、カノンは首を横に振る。


「アル君が思うような凄い物じゃないよ。一部のマニアに人気があるだけで……あの人・・・とか」

「ん?」

「とにかく、それの価値は古いってことだけ。どんな実験にも反応を示さないし、機能もないガラクタなの」


 カノンは苦笑いで肩をすくめた。

 ただし、アルタとアモフは違った。


「お、アモフも気になるのか?」

「わふっ!」

「……二人とも、どういうこと?」


 困惑するカノンに、アルタが答える。


「なんとなくだけど、調査してみたいなって。このアモフも」

「え?」

「確かに使えなくなっただけかもしれない。でも、道具を作る人は何かしら意味を見出して作ってはずだからさ。俺はそれを知りたい」

「……!」


 錬金術師のアルタだからこその視点だ。

 その好奇心をくすぐる目に、カノンもふっと笑う。


「そこまで言うなら行ってみよっか」


 次の目的地は決まった。


古代の遺物アーティファクトが見つかる“第二層”へ!」

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