第5話 波乱の初デート!?

 日曜の朝。

 鏡の前でシャツの襟を直しながら、俺は深呼吸を繰り返していた。


「よし……今日は、人生初の“正式デート”だ」


 窓を開けると、隣のひよりの部屋から顔を出す彼女と目が合った。

 白いブラウスに淡い水色のスカート。いつもより大人っぽく見えて、俺の心臓は一瞬で加速する。


「お、おはよう、悠真」

「おはよ……ひより、その服……」

「へへっ、変じゃない?」

「い、いや。めちゃくちゃ……似合ってる」


 言った瞬間、ひよりの耳まで真っ赤になった。

 その照れ笑いに俺も顔が熱くなる。

 ――開始三分で死亡フラグか。





 午前十時、駅前の映画館。

 チケット売り場の前で、ひよりが楽しそうにパンフレットを覗き込む。


「ホラーは無理だから、ラブコメ映画にしよ?」

「お、おう。ラブコメ……(こっちも二次元のラブコメ真っ只中なんだけどな)」


 チケットを買おうとした、その瞬間。


「おーい悠真! 奇遇じゃん!」


 背後から陽気な声。振り返れば――

 茶髪をひとつ結びにした小鳥遊すみれがポップコーン片手に立っていた。


「え、すみれ!? なんでここに!?」

「んー? デートだよデート! ……あ、別に悠真とじゃないけど」


 そう言って視線を動かした先には、男子バスケ部のイケメン先輩が。

 ――おいおい、フラグ乱立装置かよこの女。


 さらに。

「先輩、おはようございます」

 後ろから聞こえたのは爽やかな声。

 現れたのは、よりによって朝倉蓮だった。


「俺も今日、友達と映画で……って、水瀬先輩と一緒なんですか?」


 ――なぜこうも集合する!?

 ここは映画館じゃなくて修羅場生成装置か!?





 結局、全員が同じ上映回に座る羽目になった。

 前列にすみれとバスケ先輩。

 後列に俺とひより。

 さらに通路を挟んで朝倉。


 映画が始まるが、俺はスクリーンよりも隣のひよりの様子が気になって仕方ない。

 ひよりは笑いながら、時折俺の袖をちょんと引っ張ってきたりする。その仕草に心臓が爆発寸前。


 しかし、ここで問題が発生。

「……あ、ポップコーン落とした」

 すみれがバケツをひっくり返し、バサーッと俺たちの足元に散乱。


「ちょ、すみれ!?」

「ごめんごめーん!」


 映画館中にバターの匂いが広がる。俺とひよりは笑いを堪えるので必死だった。


 さらに朝倉が小声で話しかけてくる。

「先輩……手、繋がないんですか?」

「な、なに言って……!」

「チャンスは今ですよ」


 ――うるさい! 何この恋愛アドバイザー後輩!?






 外に出ると、ひよりが笑い転げていた。

「ふふっ……なんか、すごいドタバタデートだったね」

「いやほんと……予定ではもっとロマンチックに……」


「でも、楽しかったよ。悠真と一緒なら、どんなのでも」


 その一言で俺は救われた気持ちになった。

 ドタバタでも、横槍があっても、ちゃんと伝わってる。


《水瀬ひより:好感度+7》

《小鳥遊すみれ:隠しフラグ進行》

《朝倉蓮:謎の助言イベント発生》


 だけど、そのとき。

 俺の頭の中に、警告音が鳴り響いた。


《注意:タイムリープの代償が発動します》


 ――え? 俺、今日はタイムリープしてないぞ?


 次の瞬間、記憶がスッと抜け落ちた。

 気がつけば、俺は「ひよりの好きな食べ物」を一つ思い出せなくなっていた。


 ……どうやら、過去のリープの代償が、少しずつ俺を蝕み始めているらしい。

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