第3話 もう一人のヒロイン候補

 「おはよ、悠真。一緒に行こ?」


 昨日の朝と同じ場面。いや、正確には「昨日やり直した朝」だ。

 窓から笑顔をのぞかせるひよりに、俺は必死で笑顔を作った。


 ――昨日の失敗は忘れない。

 軽率な選択肢で、あっという間にひよりが後輩の朝倉に取られてしまった。


 寿命を一日削ってまで戻ってきたのだ。もう同じ轍は踏めない。



 校門に向かう途中。

 やっぱり、来た。


「おはよう、水瀬さん!」

 爽やかオーラ全開の後輩、朝倉蓮が笑顔で駆け寄ってくる。


 昨日と同じイベント。

 ただ、俺はもう油断しない。


「よ、よろしくな」

 そう笑顔を返した。


《好感度変動》

 水瀬ひより:+1

 朝倉蓮:+5


「……またかよ」


 俺が呟くのをよそに、ひよりは楽しそうに笑っている。

 このままじゃ、また“持っていかれる”。

 どうにかして、ひよりとの関係を一歩でも前に進めなきゃならない。



 午前の授業。

 俺とひよりは幸運にも同じクラスだった。

 俺の席は窓際の最後列、ひよりは斜め前の席。視線をずらせば彼女の横顔が見える。


 ――理想的な配置、のはずなんだが。


「よろしく! あたしは小鳥遊たかなしすみれ!」


 元気いっぱいに自己紹介をしたのは、鮮やかな茶髪を揺らす女子生徒。

 ぱっちりした目に快活な笑顔、ちょっと派手めな見た目だけど、どこか憎めない雰囲気。


「お前の隣、よろしくな!」


 ……そう、彼女は俺の隣の席だった。



《新キャラクター解禁》

名前:小鳥遊すみれ/属性:ギャルヒロイン候補》

『攻略対象:高難易度ツンデレ型。友情ルート/恋愛ルートの分岐あり』


 ギャル系ヒロイン!?

 俺は思わず目を丸くした。


 すみれは、にかっと笑って俺に手を差し出す。

「で、名前は?」


 選択肢が浮かぶ。

1.「悠真だ。よろしく」

2.「……別に」

3.「ひよりと同じクラスだから」


 ――またか。

 ここで2や3を選んだら、確実に死亡フラグだ。


「ゆ、悠真だ。よろしく」

 俺は慌てて1を選ぶ。


「おっけー、悠真! 今日からあたしが勉強見てやるわ!」

「え、なんで!?」

「だって、アンタ絶対勉強できなさそうじゃん」


 失礼な。いや、図星かもしれないけど。


《小鳥遊すみれ:好感度+3》



 昼休み。

 昨日の「分岐イベント」が頭をよぎる。


 ひよりと二人で食べるか、朝倉が乱入するか。

 どうする――?


「悠真、お昼一緒に……」

 ひよりがこちらを向く。


 その瞬間、またしても朝倉が現れる。

「水瀬さん、俺も一緒にいいですか?」


 きた!

 昨日、俺は「用事がある」と答えて地獄を見た。

 今度こそ正しく選ばねば――!


1. 「三人で食べよう」

2. 「悪い、用事がある」

3. 「ひよりは俺と二人で」


 ……3は勇気が必要すぎる。シャイな俺に言えるか?

 だが2は絶対にアウト。

 選べるのは――1しかない。


「さ、三人で食べよう」


 そう言うと、ひよりは少し残念そうに、それでも微笑んだ。

 朝倉は嬉しそうに頷く。


《ルート固定回避。ひより好感度:+1/朝倉好感度:+3》


 ふう……とりあえず、致命傷は回避。



 昼食を終えたあと。

「なー悠真!」

 突然声をかけてきたのは隣のすみれだ。


「放課後さ、一緒にゲーセン行かね?」


 システム音声が響く。


《分岐イベント発生》

1.「行く」

2.「用事がある」

3.「ひよりと帰る」


 おいおいおい。

 どれを選んでも修羅場の匂いしかしないぞ!?



 だが、そのとき。

「悠真、今日は一緒に帰ろ?」

 ひよりが控えめに声をかけてきた。


 窓から始まった俺たちの距離。

 その小さな声に、俺の心臓は破裂しそうだった。


 選ばなきゃならない。

 俺は、どっちだ――?

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