第11話 運命 後編

 治療はあくまでも失明までの時間を遅らせるだけのものであって、たどり着く結果は同じであった。この病気を患ったすべての人が失明するわけではないらしいが僕の場合、結果を変えることはできそうもなかった。視力があるうちからリハビリ・トレーニングを始めたが、白い杖の使い方と闇というものを実体験することに終始していたと思う。


 「壁を意識すること、自分の歩幅をこれからは常に一定にするように。これから当分の間はこの二つが課題になる」


 僕はまだ充分に目が見える段階から白い杖の持ち主となり、杖が三つに短く折り畳めることを知った。

目隠しをしての杖歩行から練習というリハビリは始まったんだ。この病院は国立であり、しかもリハビリテーション専門だったので、僕の未来を予見させる患者たちを多く見た。

盲目となったあとの職業訓練学校も併設されていたが選べるのは鍼灸師とあんまマッサージ師だけであり、それ以外には四肢欠損された人のための自動車運転訓練用シュミレーター装置があった。ゲームセンターに置いてあるそれとよく似ているが、非常に精密に改造されていて、片足でも片腕だけでも運転の練習ができるようになっていた。


 「失明してからでも運転免許って取得できるんですか?」


 愚かな質問をしたものだ。答えはきっぱりと「で・き・ま・せ・ん」だった。


 「そのうち、クルマが道を走るんじゃあなくて道路自体が人を運んでくれるようになる」と言っていたが道路に走られた方が盲人にとっては危険なんじゃあないだろうか。そう言い返すと「そうなる頃には君の時代は終わっているはずさ。寿命ってものがあるから心配しなくていい」だそうだ。


 そして、こう続けた。


 「村尾君はこれから先、友人たちとは全く違う経験をする。辛いし、挫けそうになる事がしょっちゅう、身に降りかかってくるだろう。でもね、勝ち進むしかないんだ。勝って、勝って、やっと一息つける安寧の時がきたら、その時こそが君の寿命ってものだと思う。いいかい、けっして諦めるな。挫けるな。心無い言葉も弾き飛ばすんだ。おそらく医学がどんなに進歩しても失ったものは戻ってこないだろう。だから寿命っていうたった二文字を迎え入れられた時こそ君は報われるんだ。勝者になるんだ」


 十五歳の僕にとってドクターの言葉は残酷だったし、辛すぎる現実から逃げ切れる術が無いと宣告されてしまったのだから、与えられた試練の終焉こそが自分の死である覚悟を受け入れなければ先には進めないだろうと悟らされた。


 「コトブキにイノチで寿命かぁ、それでもいいのだろう」


 溜息と一緒に口から出てしまったらしい僕の言葉を聞いて「生きとし生けるものじゃあないかなぁ」とドクターも呟いた。


 白杖を使うことはそれほど難しくはなかった。要は次の一歩を確保すればよいのだ。空間を意識すればよい事、多くを望まない事。ただ、のちのち解かる事なのだが第六感が非常に重要になるので、この感覚だけは時間がかかってしまった。


 きっと僕だけじゃあないはずだけれども、視力のあるうちに第六感を敏感にさせておく事、そうすれば自ずと修正箇所がはっきりする。僕の場合、気持ちのほうが動作よりも先に先に進んでしまって杖を突く場所が身体から大きく離れていってしまう癖があった。


 「次の足の置き場所だけを探るんだ」と指摘されても修正は難しく「村尾君は視覚が邪魔して足を引っ張っているんだ。本当に視力が無い人だったら右肘を突っ張らせることはしない」


 もし、今のままだったら前を歩く人を突いてしまうくらい僕の杖は先走っているらしく、さらに背中の後ろ側の空間認識もしなくてはいけない。


 見えていない = 何もない、からの脱却が難しかったんだ。

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