第55話 市民の義務です
「美沙姉、静香ただいまぁ~」
「お帰りなさい隼人!」
「お帰りなさい隼人様ぁ~」
ようやく、全てが終わりこの部屋に帰って来られた。
俺は両手を広げ二人を抱きしめた。
今回の盗賊の討伐は、本当に色々な事があった。
ある意味、俺が勇者を辞めようと思った原因の二人と出会い、人生の決着もついた。
あとは、ハロルド騎士団総長とグルマン宮廷魔術指南役に会って挨拶が終わったら、此処を立ち去れば良い。
出来ればこのままタミアに居たいが、聖女メルルが此処にいるし、エルミナだって此処にいる。
メルルにはリーリャさんを治して貰ったから過去の因縁は忘れる事にしたけど、あれ程馬鹿をやったのに、急に聖女に目覚め、真面になった。
『魔王討伐をしましょう』とか新たな魔王が誕生した時に纏わりついて来るかも知れない。
エルミナだって俺が美沙姉や静香と仲良くしているのに腹を立てて何かしてこないとも限らない。
ああっ、相変わらずの甘ちゃんだ。
結局、自分がした事に足を取られる。
あそこで殺しておけば……いや止めよう。
見逃したのは俺だ。
メルルにはリーリャさんを治療して貰った。
エルミナは……なんだか絶望していた時の俺に似ていた。
だから、つい甘い判断をした。
どうするんだ……これ……
「……良い考えが浮かばない」
「どうしたの隼人? 何か悩み事?」
「どうかされたのですか? 隼人さま」
心配そうに俺を見つめてくる二人に、今迄あった事を話した。
「そう難しく考えなくても……」
「そうですよ隼人様、エルミナさんは兎も角メルルさんは……静香に任せて下さい! 退治しちゃいますから」
そう言って静香は胸をポンと叩いた。
いや、静香にメルルをどうにかする力があると思わない。
「あっ、隼人様、もしかして疑ってますか? それじゃすぐに行きましょう?」
「「何処に?」」
「いいからついて来て下さい!」
美沙姉と俺はあっけにとられながらも静香の後についていった。
◆◆◆
静香についてきた場所は……衛兵隊の詰め所だった。
「兵隊さん! 私、この人、このタミアの街で見かけました! まだ、何処かに居ると思いますから捕まえて下さい!」
そう言って静香は手配書を指さした。
ああっ! そうか……なんでこんな簡単な事に気がつかなかったんだ。
あいつ、指名手配されていたんだ。
うん、大浴場へ続く廊下にも手配書が貼ってあった。
「本当かい! 元聖女のメルルを本当に見たのかい? 間違いないか?」
「間違いないです!」
「本当なんだな!」
「絶対と言われたら自信がないけど、俺もそっくりな人見かけたよ」
「私も見たわ」
「本当かい? こいつは本当に危ない奴で騎士殺しまでしているんだ! もし、見かけてもなにかしようなんてしちゃいけない! すぐに衛兵か騎士に知らせるんだぞ……」
「「「はい」」」
「くそ、なにかの間違いであってくれ、これは騎士団と冒険者ギルドに話を通してどうにかしないと……通報ご苦労さまでした……私はすぐに各所に連絡して警戒を強化する! いいかい? 本当に危ない奴だから、もし出会っても決して捕まえようとかしないようにな……」
「「「はい」」」
よく考えたら、俺が許しても意味がない。
メルルが幾ら真面になったと言っても彼奴は騎士殺しの犯罪者で指名手配されていた。
あの内容だと捕まれば牢獄行きは免れない。
聖女だから減刑されるかも知れないが、流石にそう簡単に自由にはなれないだろう。
なんでこんな簡単な事に気がつかなかったんだろう。
『ただ通報するだけで良かったんだ』
「その手があったんだ……」
「犯罪者を見つけたら通報! 市民の義務です!」
「確かにそのとおりだ」
こんなにあっさりメルルの件が片付くなんて思わなかったよ。
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