第40話 ギルティSIDE 廃棄奴隷


散々私を揶揄った癖に、いざ見て回るとハロルドとグルマンは食い入るように見始めた。


ハロルドは騎士団長だったせいか、同じような屈強な女奴隷を見たいと言い出し、グルマンは理知的な奴隷が見たいと言い出した。


2人が見て回る奴隷は高級奴隷の販売地域とオークション地域。


私が見たいのは安価な奴隷が販売されている地域と離れている。


と、いう訳で初日の今日は三人バラバラであちこち見て回り、夜に先にとった宿屋で待ち合わせとなった。


しかし、最初とは違い二人とも私以上に買う気満々になってしまったな。


二人のように高級奴隷を見て回っても良いのだが、二人に爺じゃないと言っているが私は50近い爺だ。


若いお嬢さんが奴隷とはいえ一生傍にいるのは可哀そうだ。


だから、ある程度歳をくったり、何か事情があるような者で良い。


キラキラした高級奴隷なら私よりきっと良い主人が見つかるだろうしな……


とは言え、この辺りまで来ると奴隷の質はかなり落ちてくる……


もう、最初の大通りにあったような部屋に見えるガラスのショーケースは無い。


ただの檻で毛布と水入れだけが入った檻が乱雑に置いてあるだけだ。


大通りと違い、見た感じ20歳台後半から30歳台の女奴隷もいる。


「買って下さい……お願いしますから」


「お願い、私を買って……買ってよ」


最初の場所とは違い、奴隷の声にも覇気がない。


だが、私が通ると声が止まる。


「「……」」


まぁ、気持が分からないでもない。


奴隷にも大きく分けて3つの人権がある。


1. 最低限の衣食住の保証

2. 主人に害の無い場合の命の保証

3. 身体に無暗に害を与えない


だが、これは買われた人間によって変わる。


金持ちに買われ気に入られれば綺麗な服を与えられご馳走を食べる生活もあり得るし、どうせ抱かれるなら若くて綺麗な男に抱かれたい……まぁ女奴隷としたら当たり前の事だ。


売れなければ、他の奴隷商に売られたり、どんどん悪い方へ転んでいくから、だからこそ奴隷、特に女奴隷は自分から売り込みをする。


だが、それでも、好き好んで爺のそれもどう見てもロートル冒険者の奴隷になどなりたいとは思わぬよな。


きっと私は、客として最底辺の客に見えているのだろう。


私が通ると、急に静かになる。


嫌われているのに買うのも気が引ける。


気がつくと私は……


一番入り口から遠い場所、一番価値の無い奴隷の売り買いをしているエリアに来ていた。


「いらっしゃい……ここからはジャンクエリアだ、生体保証がないのを納得の上でご覧ください……」


そう、怪しげな男に忠告された。


通常の奴隷には1か月の生体保証がつく。


1か月以内に購入した奴隷が病気や購入する前からの怪我が原因で死んだ場合。同価格の奴隷が交換として貰える。


そういう保証がある。


だが、ここから先はそう言った保証が一切ない。


そう言う事だな……


「分かっておる」


「ご存じでしたか? 一応トラブルになると困るので説明します。購入してすぐに死んでしまっても何も保証しない。そう言う事でございます」


「大丈夫です」


「分かっているならそれで良い」


「ご忠告ありがとう! それでな、私はこの通りの高齢者で見てのとおり冒険者だ……難しいと思うが私みたいな者でも家族として受け入れてくれるような奴隷が居そうな場所はないかね?」


私はこそっと銅貨3枚を渡した。


「分かっているね、お客さん。 買う方が奴隷を選ぶように、奴隷だって主人は選びたい。落ちた人間だからこそ『幸せ』をより一層求める。『奴隷の癖に』そう思うかも知れないが、王子様みたいで優しいご主人様に買われる……そう夢見る奴も多いんだ。何となく分かるだろう」


「ああっ、若い男や裕福そうな男性と私で随分と違ったからね」


「いいかたは悪いが、貧相な婆さんとキラキラした王女様、アンタだってどっちが良い?」


「確かに王女様を選ぶな……」


「だろう! 女奴隷に選ぶ権利はない。買われればどんな男にだって奉仕し仕えなくてはならない……それでも心の底は縛れない。好みの主人になら心底仕えるかも知れないが嫌いな人間ならどうしても上辺だけになる。人として当たり前だ。 ここで良い主人に選ばれる様に、営業かけるかけないが、彼女達の最後の権利、最後の自由なんだ」


「確かにそうですね。 それなら好んで私みたいな爺の冒険者を好いてくれる奴隷はいませんな」


今の私にはハロルドやグルマンみたいな若さはない。


昔はそれなりにモテていたが……今の私は只の爺だ。


「おっと、まだそう決めつけるのは早い。そこで奥にある二つのテントだ。一つは、犯罪奴隷や歳を喰った奴がいるテントだが、今は女の犯罪奴隷は居ないから、お客さんにとっての目当ての奴隷は居ないな。だが、もう一つのテント、あそこはつい最近作った本物の『廃棄奴隷コーナー』だ。あそこになら居るかも知れないぜ!」


「廃棄奴隷……」


これは初耳だぞ。


「最近、魔王軍が魔王が倒された事で一部地域で戦闘が活発になってな……それでまぁ、本当に酷い状態の奴隷が入荷してくるようになったんだ……見た瞬間から、その酷さが分かるが……もし入荷していたら、爺さんでも愛してくれそうな奴隷もいるんじゃないか? あそこは、まぁ見りゃ分かるが、この世の地獄だからな」


「そうか……ありがとう」


しかし……どうなっている。


もし、魔王軍と戦い傷ついたなら、国がある程度の保証をしてくれそうな物だが……


そう思いながら、指さして教えて貰ったテントに入った。


薄暗いテントの中を見ると……これは奴隷なのか……


見た瞬間思ったのは死体置き場。


重傷を負った人間が無造作に檻に放り込まれていた。


だが、一応の手当はされていて生きてはいるようだ。


うぬぬぬっ……一瞬奴隷商人に怒りを覚えたが……怒っても仕方が無い。


しっかりと、よく見ると包帯が巻かれ最低限の手当はされていた。


二束三文の価値の無い奴隷なのに手当がされている。


案外、ここの奴隷商はこれでも善人なのかも知れない。


死に掛け状態で売られてきたのなら、この手当でも赤字の筈だ。


確かにこの状態なら、死に掛けだ。


買えば確かに感謝をしてくれそうだ。


全部で檻は8つ。


檻を一つ一つ見て回る。


やはり怪我人の多くは男。


しかも、手足の欠損が多い。


悪いな、全員を買う事は出来ない。


罪悪感から、一つ一つの檻に上級ポーションを1つ置いた。


さぁどうするかな……


そう考えていると……


『ギルティ……様』


私を呼ぶ声がした気がした。


何処だ……


『ギルティ……』


声の方を見ると、更に離れた所に檻がもう一つあった。


黒い毛布が掛けられていて、周りから見えないようにされていた。


「此処から聞こえてきたように思えるが……」


毛布を捲って見ると……


これは酷い、左手に右足が無いばかりか顔から体まで余す事なく火傷している。


くすんだブロンドの髪に綺麗なブルーアイ。


それ以外は……包帯から見える肌は焼けただれていて、どんな人間かも分からない。


『ハァハァ ギルティ様……』


私の名前を呼ぶ女奴隷……気になる……助かるかどうか分からないが、買う事に決めた。


◆◆◆


「それ、もう廃棄品だから無料でいいよ……毛布かけてあっただろう? もう手の施しようもない奴隷だから、死を待つだけだ……あと、アンタ奴隷の檻にポーション置いていただろう? あれで皆少し回復したんだ。 だから此奴はサービスで無料で良い。ただ。登録料金と奴隷紋の刺青の刻み賃で銀貨3枚、これだけは必要だ」


「それで構わないが銀貨3枚払うから、その悪いが……あそこの女性の死体も貰えないか」


私が買った奴隷の傍にシートをかぶされた女性の死体があった。


見た感じ、死んでから間もない感じだ。


「いや、死体は埋葬が面倒くさいから、引き取ってくれるなら無料で良い」


結局、登録料金と奴隷紋の刺青の刻み賃で銀貨3枚を支払い、彼女と死体を私は貰い受けた。


◆◆◆


宿屋に事情を話しもう一部屋大き目の部屋を借りた。


ポーションを入れ点滴を行う…….


同時にパラライズの魔法を掛け、体を麻痺させた。


これで暫くの延命が出来、身動きも抑えられる。


彼女が死ぬ可能性は恐らく火傷だ、まずはこちらから手当てを行う必要がある。


これでも大臣になる前はヒーラーだった。


やるだけやってやる。


『アイスメス』


魔法で氷の刃を無数造り出し細かく操作して体から皮膚を切り取る。


皮膚の下の火傷した部分の筋肉も一緒に削ぎ取る。


昔、指導した回復師はこの光景を見たら気絶したな……


全身皮を剥がされた人間は見方によっては下手な魔物より醜悪だ。


「ごめんなさい……貴方の体を頂きます」


貰ってきた遺体から皮を丁寧に切り離し、奴隷の方に移植していく。


貼り方は雑で良い。


それよりもスピード重視だ。


あとで魔法とポーションで仕上げをするから、剥がしてからのスピードが重要。


これで、とりあえず傷だらけだが、どうにか見られるようになってきた。


後は欠損している手足の治療に取り掛かる。


どこかで見たような気がする……年の頃は20~22歳、なかなかの美人だ。


だが、思い出せない……いつ、どこで彼女に会ったのだろう。


今それより、左手、右足だ。


これは義手と義足にするしかないな。


アイテム収納から『魔導義手』に『魔導義足』を取り出した。


『魔導義手』に『魔導義足』これを繋ぐしかないか……


騎士など戦闘職の為に開発した物だから、見た目はまるで鎧の腕や足だ。


女性にこれは、申し訳ないが他に代用品は無いし、その辺の街に居る魔装具士では品質の悪い物しか恐らく作れない。


我慢して貰うしかないな……


どうにか『魔導義手』に『魔導義足』を神経と筋肉と繋いで……最後にハイヒールをかけた。


一応、何か起きた時の為に念の為ハイポーションを更に1振り、振りかけた。


確認の為に顔を近づけて見る。


息をしっかりとしている。


どうやら上手くいったようだ。


ふぅ、久々の大掛かりな治療……疲れたわい。


このまま休ませて頂くか……


疲れ果てた私は、そのまま床に突っ伏した。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る