第88話 合流

(カラクリっつったってどんなもんよ)



 とりあえず適当に歩きだしながらシロに頭の中で問いかける。俺は正直全然余裕なかったからよくわかんないんだよな。ただでさえふわふわになってたし。



(あの赤い髪の子供……複数の魔力を内包していました)

(複数の魔力を内包っていうと、あの子供本人以外の魔力を持ってたってこと?)

(そうなります。どういった手段かはわかりませんが)



 うーん。それが分かったところでなあ。いやまあ無尽蔵ではなさそうってのは救いなのかもしれないけど。

 ありえそうな手段でいうと……どこかほかのところから魔力の供給を受けてるとか、魔力のストックができるとか? ありえなさそうなのでいうと、そもそも個人じゃなくて群体だったとか? 

 まあPIって意味わかんねえ生き物だからな。まともに考えてもしょうがないところはある。

 相手のカラクリが何であれ、どのみち俺がもっと強くなる必要はあるからな。今のままだとどうしようもない。


 それよりもなんであのタイミングでアイツらは帰っていったのかを考える方が有意義な気がするな。状況的にはこっちはほぼ壊滅だったし。

 赤い髪の子供がこっち側に来なかったのか、来れなかったのかでだいぶ話が変わってくるけど……。いったん来れなかったと仮定しておこう。もしこっち側に来ることができたならそうしない意味がない。

 だとしたらなんで来れなかったのってことなんだけど、……よくわからんな。何らかの制限があったのかもしれないけど、うーん。いろいろ考えるには情報が足りてないわ。


 そんなことを考えながら、人ごみの間をすいすいと抜けていく。日ごろの歩きスマホで慣らしてる俺にとっては、考え事をしながら人の間をすり抜けるなんてのは朝飯前だぜ。……あんまり自慢できることでもないな。

 まあこのまま人の流れが多い方に行けばエレベーターとか階段とかあるでしょ。いろいろ考えなきゃいけないことはあるけど、今はとりあえず唯さんと合流しよう。


 ぐいぐいと人込みをかき分けて進む人の後ろに付けて進んでいくと、予想通りエレベーターが見えてきた。見た感じエレベーターは結構混んでるから階段で行こう。どうせ近くに……あったわ。人の流れに逆らわずするする進む。階段の表示をみると、どうやら現在地は二階だったらしい。食堂は一階だったよな。

 そのまま階段を降りると見覚えのある景色になってきた。さっきの記憶を頼りに食堂までの道を突き進む。


 そうして長い通路を抜けて食堂に出る。そこには避難してきたであろう人々が詰めかけており、ワーワーと話し声が飛び交っていた。特に入り口周りでつっかえており、大混雑が発生していた。

 この中から一発で見つけるのはなかなか大変そうだな。でもガヤガヤしてると頭に響いてくるわ。早めに合流したいな。しょうがない。



(シロ。唯さん見つけて)



 シロに唯さんの魔力を見つけてもらい、その案内を頼りに進んでいく。こういう時精霊がいると便利だ。シロ曰く個人個人で魔力に微妙に違うらしい。まあ俺にはその違いはよく分からないんだけど。

 シロのナビのもと、人ごみを抜け出すと、開かれた視界の先には唯さんが椅子に座っている姿があった。

 唯さんも俺の存在に気づいたようで、一目散に駆け寄ってきた。



「麻里ちゃん!」

「唯さーん!」



 唯さんは駆けよってきた勢いのまま、ものすごい勢いで俺を抱きしめる。ぐえっ。

 なんという不可避の速攻……! いやまあ避けようと思えば避けれたんだけど、避けるのも、ねえ? 

 心配をかけているのは確かだしな。これくらいは甘んじて受けよう。なおもギューッと抱きしめられる。……そろそろ呼吸が苦しくなってきたな。何度か二の腕をタップする。

 ぷはあ。なんとかホールドから解放された。もうちょい長かったらまた気絶するところだったな。



「もう……また無茶したんでしょ?」

「うーん、無茶する予定じゃなかったんだけどね」



 あんなのが来るなんて聞いてないってばよ。聞いてたら行かなかったのかって? ……まあそんな質問は野暮ってもんでしょ。どのみち俺が無茶しないといけない場面だったとは思うし。



「そ、それより! 唯さんの方は大丈夫だったの?」



 とりあえず目先をそらすために質問する。正直このビルの中にいても戦いの余波とかけっこう食らいそうなもんだけど。



「ああ、それはね。あやめちゃんたちが一緒に避難してくれたから大丈夫だったわ」

「ほえ~。ちゃんとお礼言わないとね」



 ちゃんと仕事してんじゃんね。世の中は戦えない人の方が断然多いから、そっちを助けに行く人も必要。これは適材適所やね。わざわざヒーラーを前衛にして殴らせないでしょ? 縛りプレイなら別かもしれないけど、現実で縛りプレイしてる余裕はないしな。



「そのあやめちゃんはどこ行ったの?」

「なんかさっき大人の人に呼ばれてたけど……」



 魔法機関の人かな? うーん。一応俺も魔法機関に入ったっちゃ入ったんだけど、ちゃんと色々する前にPIが来ちゃったからな。俺も何かした方がいいのか? 若干手持ち無沙汰になってしまった。どうしたもんかね。

 そんなことを考えていたら、誰かがパタパタと駆け寄ってくる音がする。



「あっ! まりちゃん! ちょっとこっち来てください!」



 紫髪の少女、あやめちゃんがこちらに向かって手を振っていた。何かあったのかな?

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