第26話 めっちゃバズってる

 俺が映っていると思われる動画は、俺のビームとキモトカゲのブレスが相殺しあったところで途切れており、画質もそんなに良くなかった。


 もしかしたらこの魔法少女は俺じゃない可能性もある。見間違いかも? もう一回最初から動画を再生するか。


 歪む空間。突如現れる白い魔法少女。爆音とともに衝突しあう魔法。よく見たら奥の方に遠ざかっていく人影も見える。二階堂さんっぽいな。


 うーん。どう見ても俺だな。あんまり顔は鮮明に映ってないけど、状況がもう逃げられないって言ってる。でも誰がこの映像を撮ったんだろう。


 画角的にちょっと高いところから撮ってそう。 駅の方向から撮ってるから、どっかのビルの監視カメラとか? じゃあなんでそんな映像がSNSにほいほい上がってるんだって話なんだけど。


 なんか魔法少女は目立ってなんぼみたいな考え方の人多いから、善意でアップしてる可能性もある。応援くらいの気持ちで。特に配信とかやってる人は宣伝にもなるし。


 まあ不幸中の幸いは、変身前が後ろ姿しか映ってなかったことか。後ろ姿だけなら似てる人っていくらでもいるし、適当にごまかせるっしょ。


 なんかこの動画の情報ないかと思って返信欄を見る。めっちゃコメントついてるな。



[こんな普通の住宅街に出ていいやつじゃないだろ]

[どこにも出ていいやつじゃない定期]

[この魔法少女だれ? 見たことないんだけど]

[真っ白でかわいい。画質悪いけどかわいい。俺にはわかる]

[こんな魔法少女が在野にいるの、世界って広いんやなって……]



 おおむね好意的な感じだ。まあ変に叩かれたりしてなくてよかった。ネットは何が原因で燃えるかわからないからな……。


 意図せずバズっちゃったけどまあ炎上とかじゃないし、そんなに気にしなくてもいいか。それよりもPIの集団に狙われてる可能性の方を考えなきゃいけない。


 俺がスマホを見ながらどうしようか考えている間に、どんどんテーブルの上にお皿が並べられていく。今日はカレーだ。なんかいい匂いがしてたんだよな。


 唯さんがてきぱきと準備を進める。あっという間に二人分の食事が完成した。唯さんが向かいの椅子に座る。



「いただきます」

「いただきます」



 手を合わせて食事の開始のあいさつをする。なにはともあれ、ご飯を食べなきゃ始まらない。


 ニンジン、ジャガイモ、タマネギに豚肉の入ったベーシックなカレー。結局こういうカレーが一番おいしい。スパイスのきいた本格的なカレーよりも俺はこっちの方が好きだ。


 カレールーとごはんの境目をスプーンですくう。俺はルーとご飯は混ぜずに食べる派だ。なんかぐちゃぐちゃに混ぜるのってもったいない感じがするんだよな。


 そうしてすくったアツアツの一さじを口に運ぶ。おいしい。なんかのパラメータが飛びぬけてるわけじゃないのにどうしてカレーってこんなにおいしいんだろう。


 パクパクとスプーンを進めていると唯さんが話しかけてきた。



「麻里ちゃん。今日は何があったの?」

「うーん。なんか帰ってくるときに急にPIが出てきたんだよね」

「駅からここまでの間に?」

「そうそう」



 いろいろ言わなきゃいけないことがあるけど、めちゃくちゃ言いづらい。ただでさえ心配性な唯さんに、俺が狙われてるかもなんて言ったらどうなっちゃうんだ。


 シロが急に脳内に話しかけてきたのも、唯さんを心配させないための配慮だと思う。あいつそういうところはちゃんとしてるからな。伝えるなら俺の口からちゃんと言えってことだろう。



「麻里ちゃんがケガするなんて随分久しぶりじゃない?」

「そうだっけ? 確かに最近はあんまりケガしてないけど……」

「昔はちょっと目を離すとすぐケガしてきて……大変だったんだから」

「そんなこともあったっけ……」



 唯さんは俺を見て微笑んでいる。俺はうまく笑えているだろうか。うーん。どう切り出したものか……。



「麻里ちゃん」

「な、なに?」

「言いたいことがあるんじゃないの?」



 どきりとした。俺ってそんなに挙動不審だったか?それとも俺ってめちゃくちゃ顔に出るタイプだったっけ。



「ちょっと言いづらいんだけど、いい?」

「うん」

「その……」



 俺が言いだそうとした瞬間に、スマホの着信音が鳴った。電話をかけてくるような知り合いはいないはずだけど。セールスの電話か?


 そう思って画面に目をやると、「魔法学院 学務」と表示されていた。


 新手の詐欺にしては心当たりがありすぎる。試験のときに電話番号も書かされたしな。しょうがないから出てやるか。



「ごめん、電話でるね」



 唯さんに一言入れ、画面をスライドして電話に出る。



「もしもし」

『魔法学院の宮川でございます。大出麻里様のお電話で間違いないですか』

「はい、大出です」

『確認したいことがありまして、少々お時間いただいてもよろしいでしょうか』

「まあ……はい」



 講習をしてくれてる宮川さんだ。電話越しだと全然違うな。それにしてもこんな夕食時に電話をかけてくるなんて。よっぽど非常識かよっぽど緊急事態かのどっちかだ。まあ後者だろうけど。



『SNSなどで今拡散されている大型のPIと魔法少女が戦闘している動画はご覧になりましたか?』

「繁華街にでっかいのが出てくるやつですか?」

『いえ、住宅街で戦闘が起こっているものです。大型のPIと白い魔法少女が戦闘しているものです』

「ああ、見ましたけどそれがどうかしましたか?」

『単刀直入にお聞きしますと、あの白い魔法少女は大出さんでしょうか』



 うわ。なんかごまかしとかきかなそうな雰囲気。わざわざ電話してきたってことはある程度確証があるんだろうし、素直に答えとくか。



「はい。動画を見た感じはわたしのように見えました」

『あの大型のPIは単独で討伐されましたか?』

「はい」

『急なお願いで申し訳ないのですが、あのPIについての情報をいま探しておりまして、情報提供にご協力いただけないでしょうか』



 なに言われるのかと思ったらそんなことか。俺はてっきり「ビームで町を破壊しすぎです」とか言われるのかと思ったわ。怒られることはなさそうで安心。



「大したことは言えないと思いますけど、それでもいいなら」

「ありがとうございます。本日はお時間もお時間ですので、直近のご都合のよい時間を教えていただけませんか? こちらからお電話させていただきます」



 今電話口でワーワーいうんじゃだめなのか?まあ、いつだってご都合がよいぞ。なぜなら俺は高校に通ってないからな。



「明日とかで大丈夫ですよ」

『何時ごろがよろしいでしょうか』

「じゃあ午後二時で」



 起きられるかわからんし、このために早起きしたくないしな。



『承知しました。それでは明日の午後二時にお電話差し上げます。夜分遅くに申し訳ありません。失礼します』



 ぷつっと電話が切れた。スマホをマナーモードにし、改めて唯さんに向き直る。



「何の電話だったの?」

「学院から。なんか今日のことについて聞きたいんだって」

「へえー。それってさっき言おうとしてたことと関係ある?」

「あるかも。覚悟してね」



 気を取り直して、いざ!



「まずPIに狙われてるかもしれない」

「えっ?」

「しかも複数っぽい」

「えっえっ?」

「あとSNSでめっちゃバズってる」

「えっえっえっ?」



 意味わかんないよね。俺もよくわかんない。

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