第5話 遅刻しそうな時の足の速さは異常

 あのあとぐっすり寝てばっちり起きて元気百倍になりました。若い体はたくさんの睡眠を要求する。だから若干寝坊したのはしょうがない。うん。


 大慌てで顔を洗い髪を整え歯を磨く。時間がやばいよ~! こういう時電動歯ブラシがうらやましい! なんか楽そう!



(ていうかシロが起こしてくれればよかったのに)

(自己責任です)

(もはや俺とシロは一心同体でしょ)

(否定はしませんが......)

(じゃあシロの責任でもあるよな?)

(......一理ありますね)

(なんで起こしてくれなかったんだよ)

(時間を気にして生きていないもので)



 そういやシロってめっちゃ長生き?だったわ。もうお年寄りだから時間感覚がバカになっちゃってるんだな。



(何かとても失礼なことを考えていませんか?)

(ソンナコトナイヨ)



 口をゆすいで拭き、適当にリップクリームを塗って朝の支度を終える。朝ごはんはしょうがない。朝ごはんキャンセル界隈に加入だ。


 持ち物は、本人確認のできるもの......マイナンバーカードでいいか。あと筆記用具。財布、スマホ。まあ最悪財布とスマホあればどうにかはなるだろ。きっと。それらをわちゃわちゃとトートバッグに詰め込んで玄関へ。



「いってきまーす!」

『行ってきます』

「いってらっしゃい」



 見送る唯さんを背に走る! 唯さんに手を振る! 走る! 常識の範囲内で身体能力を強化して走る!

 アスファルトを砕かないぐらいの勢いで晴天の下を走り抜ける!


 風。ものすごい一体感。いま、俺は風と一つになる......!



(そろそろ人通りが増えますよ)

(もう?いいところだったのに)

(試験の前からはりきりすぎなくてもよいでしょう)

(それもそうか)



 フッ、と力を抜いて全身の魔力の巡りを均一にする。このくらいなら息切れすることもないが、気分的に一度大きく息を吸い込む。吐き出す。


 時間的には結構余裕だ。やっぱり走るのって爽快感があるわ。

 スマホをかざして改札を通過する。やっぱり文明の利器ってすげえ! 仕組みが全然わかんねえ!


 ラッキーなことにスマホによれば試験会場までは直通で行けるらしい。こりゃもう勝ち確ですわ。GG。


 電車が来るまでここは現代人らしくスマホでも見てようかな。面白そうな話題ないかな?

 うーわまた芸能人が不倫してるよ。ようやるわ。こんなん見てたら気が滅入るわ。次いこ。


 そんなこんなしてたら電車がやってきた。弱冷房が気持ちいい。4月の弱冷房って気持ちいいよな~。6月だともう弱だと物足りなくなってくる。地球温暖化はえぐい。


 そういや試験受ける人たちってこの電車に乗ってんのかな?



(試験受けそうな人って電車の中にいる?)

(高い魔力を持つものは何人かいますが)

(俺と比べてどう?)

(マリと比べるとそこそこですね)

(そこそこかぁ)



 他の魔法少女がどんなもんなのかよくわかんねんだよな。俺より強いやつがめちゃめちゃいるなら日本は安泰なんだけど。

 突然スーパーヒーローが現れてPIをボコボコにして全部解決してくんねえかな~。

 俺が百人くらいいたらどうにかできるんだけど、残念ながら俺はこの世に1人いかいないんだよな。世の中ってうまくいかないようにできてるわ。


 試験の前に辛気臭いこと考えてると気が滅入るわ。あーやめやめ。もっと楽しいこと考えよう。



(せっかく東京まで行くんだから唯さんにお土産買ってこうかな?)

(いいんじゃないですか)

(やっぱり東京と言ったら小鳥のやつ?)

(私は精霊ですから東京のお土産事情に詳しくありません)

(それもそうか)

(果物の形を模したものはどうでしょう)

(知ってんじゃん)

(テレビで見ました)

(いつの間に......)



 コイツ俺が寝てる間とか暇なときテレビめっちゃ見てるんだよな。何なら俺より東京事情に詳しいかもしれん。魔法関連以外もカバーしようとしてないか?

 というか俺の方がシロより詳しいことってなにかあったっけ?

 うーん......。

 まずいな......。なにも思いつかないぞ。

 このままだと一生シロに知識マウントを取られ続けることになってしまう。勉強って大切なんだ......。



(どうしたんですか変な顔して)

(は? 変じゃないが?)

(知らないことがあっても堂々としていればよいのです)

(ハッタリかませってか)

(言ったでしょう)

(え?)

(私と貴方は一心同体。あなたがわからないことがあれば私が助けます)

(アツすぎ!お前神か?)

(精霊です)



 うれしくてニヤニヤしちゃうね。電車の中で急に不敵な笑みを浮かべた不審者が一名完成ってところだ。俺たち運命共同体ですので、よろしく!



『次は魔法学院前、魔法学院前。お出口は左側です。』



 シロと楽しいおしゃべりをしてたらもう目的地まで来てた。どうして楽しい時間ってすぐ終わってしまうん? 時間の流れにはゆがみが生じていると見た。


 人の流れに従って降車する。ピカピカの駅のホーム。なんだかちょっと前に魔法学院ができるのに合わせて新しくできたって何かで聞いたな。


 魔法学院が何かって? 魔力のことが勉強できる学校。らしい。全然詳しいことは知らない。てか魔力のことが勉強したいなら精霊に聞けばいいのに。


 ピカピカのホームからエスカレーターで上り、改札を抜けると目の前に巨大な建物が現れた。


 太陽の光を反射して、目に痛いくらい真っ白な外壁。外部からの侵入を阻むような背の高い塀。その威容は教育機関というよりも、もはや砦のようであった。



 うお......すっげえ......めっちゃでかい豆腐みたいだ。魔法学院が何かって?よくわかんないけどめちゃくちゃな金が動いたことは分かったぞ。

 ここが試験会場ってマジ? もう緊張するんですけど。俺ってば根っこが小市民だからこんなとこ気が休まらないよ......。


 恐る恐る魔法学院に向かう。大丈夫?これ入場料とか取られたりしない?


 なんかでっかい門あるんですけど!テーマパークか!ヒエ~~~!


 近づいていくとでっかい門の横に通用口みたいなところがあった。あそこから行くのかな?なんか人いるし多分そうだろ。



(おいシロ、なんかすごいぞここ)

(できた時は連日この話題で持ちきりでしたよ)

(うわさと実際とじゃなんか違うじゃん)

(たしかに立派な建物ですね)



 シロとテレパシーでおしゃべりしながら通用口へと向かう。すっと通り抜けようとしたその時、



「資格試験を受験の方ですか?」

「は、はひ!」



 いきなり守衛の人に声をかけられた。

 話しかけられると思ってなくて声裏返っちゃった!最悪だ!



「このまま門を抜けてまっすぐ進みますと、試験会場への順路の看板がありますのでそれに沿ってお進みください」

「あ、ありがとうございます!」


 そそくさと逃げるようにして進む。やさしさが痛え! 緊張しすぎてヤバいわ! もう試験は始まってるってか?あ~恥ずかし!



(情けないですね)

(言われなくてもわかってるよ!)



 羞恥心をかき消すように速足で進む。進む。進み続ける。......あれ?



(なんかめっちゃ歩いてるのに全然看板見えなくない?)

(外から見てあの大きさですからね)

(これって急がないとヤバいか?)

(おそらくは)



 本日二回目。俺は風と一つになる......! 看板......看板はまだか......!

 あの遠くにあるちっちゃいやつか? 魔法学院でかすぎるって!


 さらに強めに魔力を込めて看板らしきものまで駆ける。全然人いないし大丈夫っしょ! 6月まではまだ違法行為じゃないし!


 近づくと看板らしきものの内容がはっきりと見えてくる。なんか地図っぽいのが見えるし順路だろう。一安心だ。


 少しずつ速度を緩める。



(なかなかいい汗かいたぜ)

(冷や汗じゃないですか?)

(やかましいわ)



 看板に貼られた地図を見ると、どうやらここから左前に位置する第一校舎で試験の受付をしているっぽい。


 第一校舎ってあれか?外から見た時にも思ったけどでかすぎんだろ......。本当にここで試験すんの? あってる? 不安だ~。



(早くしないと遅刻しますよ)

(わかってるって)



 そうして俺は魔王城に乗り込む勇者の様な面持ちで、第一校舎に乗り込んだ。

 いざ魔法学院へ!






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