第40話:いんたあみっしょん04
みなさん、はじめまして、
ご覧の通り、桜花女子高等学校の一年生です!
この缶チューハイは、寝酒です。
……あ……はい。はい、真面目にしますから、ブラバだけはやめて……。
こ、こんな格好してますけど、本当は都内の大学に通う、ごく普通の女子大生です。
普通の女の子ってのは、本当ですよ、ちょっとたまに女子高校生のコスプレしてるだけですから、ぴちぴちの二十歳の女子大生ですから、どこにでもいるフツーのジョシですから、ほんと、マジ信じて!
あ……えっと……。そうですね。あたしの部屋は、見ての通り、コンビニの容器とか脱ぎっぱなしの服とか、古書の山とかで、ちょっとした魔窟みたいになってます……。
でも、一ヶ月に一度ぐらい綺麗にしてるんですよ。
女の子ってみんなそういうものですから、あたしだけが特別なわけじゃないですよ。
う、うん……そうだよね。知ってる。あなたが本当に聞きたいのは、そんなことじゃないんですよね。
なんで、あたしが【特異點開發室】なんていうヤバいサイトで、「LILY」なんて大げさな名前を名乗って、人の恋愛を突いて壊す、みたいな仕事をしてるのかって話とか、ですよね?
うーん、理由は……やっぱりお金、です。
あたし、昔から本が好きなんですよ。
特に、もう絶版になっちゃった社会学とか人類学の専門書。読んでてもさっぱり理解できないけど、目で追うのが楽しいんです……。
でも、こういうのって、すっごく高いんです。奨学金だけじゃ全然足りなくて。だから、まあ、これが一番、効率のいいアルバイトなのかなって。
でも、お金だけじゃないんです。
面白いんですよ、これ。
普段は偉そうな大人の仮面が、あたしがちょっと突っつくだけで、ぺりぺりって音を立てて剥がれていくの。中から、情けない本性とか、ドロドロした欲望とかが、やっほーって顔を出してくる。
動物の性欲と違って、人間の性欲には社会性がありますよね? それがバリバリって、夜の障子を突き破るみたいに、生の姿を出すのを見た時の気持ち。あなた、わかりますよね? 悲鳴みたいな声、出しちゃうの楽しいですよね?
こんな性格のせいで、よく「ビッチ」とか言われます。軽蔑語として、かなり強い言葉ですよね、これ。
語源とか無視して、現代語訳すると「お前は恋愛の資格を失った、人類の裏切り者だ」って意味であってますよね?
でもあたし、別に恋愛とか、興味ない……。誰かを本気で好きになったことも、なることもないと思うんです。資格を求めたわけじゃないのに、その資格はないっていうのひどくないです……?
あたしのこの論法は、ちょっとしたトートロジーだけど、でも本質的にはこういうことだって思ってます。だから、ビッチって言われるの、実はちょっと、かなり嫌です。
あたしは、性行為って、実験室で使うピペットみたいなものだと思ってます。お医者さんみたいに、衛生面に気をつけてさえおけば、相手がどんな人でも平等に接すること、できますよ。
それに、性行為って、相手の心の中にある本音を、ちゅーって吸い出すのに必要な道具にならないですか? 人類だけの文明の利器なんですよ、性行為って。その文明の使い方が人によって違うの。
だから、最近【特異點開發室】の住民たちが、あたしのことを『サキュバス』って呼んでるけど、こっちはちょっと気に入ってるんですよね。
サキュバスって、男の人から精気を吸い取る夢魔でしょ?
でも、あたしが吸い取ってるのは、精気じゃなくて、その人の心に溜まった「嘘」とか「見栄」とか「偽善」みたいな、いらないデータだけなんです。
むしろ、システムの風通しを良くしようと身を張って頑張ってるんだから、褒めてほしいぐらい……。
あ……あっ、そうそう!
ここまで、人間関係のデバッグ業やってきたけど、どこまで本気かわからない依頼メッセージが増えてて困ってるんですよぉ。
いつまで経っても本題に入らない人も増えてる。女の子の通話料ってタダじゃないんだから、ぷんぷんしちゃうよ。
だから、そろそろ「典子ルール」みたいなのを、しっかり作って、はっきり明示した方がいいのかなって考えてるんです。
安全化、公正化、効率化の三点をベースに考える時が来てるかな〜って。
ちょっとずつ有名になっていくけれど、こっちの個人情報が簡単に漏れたら怖いですから、依頼主さんのと個人情報を交換することも視野に入れています。
前回、依頼主さんが匿名でちょっといやでしたから……。
えっ、その前に、この散らかり放題の部屋を片付けるのが、一番の『安全化』で『効率化』?
ちょっと、ひどくないですか。なんで、そんなこと言うんですか!?
あ……ほら、見て。涙が零れました。まだまだ溢れ出ちゃいそう。どうするんですか、これ。
制服女子を泣かして、そのままで済むと思ってないですよね?
あなたのところ、依頼が来たら、絶対に容赦しないから、覚悟しておいてくださいよ!
もう寝るから、缶チューハイの残り、どうぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます