第16話:夫婦ではない男と女の寝室になった

 典子は、仰向けになると、恥じらいを捨てて、ゆっくりと両脚を開いた。

「……拓也さん」

 吐息と共に、名前を呼ぶ。

「……あたしが、どうしてほしいか、分かってくれます……よね?」

 粘り気のあるそこが、部屋の小さな灯りに、うっすらと照らされていた。

 彼は、ゆっくりと典子の足元へと移動し、その前に、ひざまずいた。

 そして、その花弁に、唇を寄せてくる。

 ──そう。いい子。

 典子は、彼の頭を優しく撫でた。

 やがて、生温かい舌の感触が、彼女の最も敏感な場所を、なぞり始める。

「んっ……ぁ……!」

 びくり、と典子の身体が跳ねた。

 拓也は、最初は戸惑っていたようだったが、典子の反応を確かめるように、次第に舌先の動きをリズミカルに早めていく。

 ちゃくちゃくちゃくと、音が鳴っていく。

「ん、ん、あっ……!」

 恥ずかしい音と、恥ずかしい声で、赤くなった顔を隠すように、黒髪のボブを左右に振り乱す。

 典子の思考が、快感の波に、溶かされていく。

 それでも、彼女は、この姿を見せることこそが、彼の自信を回復させる唯一の道だと信じた。

 自分の欲望に、ただ素直になる。その姿を見せつけていく。

「……はっ……ぁ、ん、んんっ……!」

 彼女は、もう声を抑えるのをやめた。

 自分の身体が、一人の男によって、快楽の絶頂へと導かれていく。その、どうしようもなく猥雑で、しかし純粋な様を、彼に見せつけるために。

「あ……ああ……っ! あああああっ!」

 典子の甲高い絶叫と共に、その白い身体が、シーツの上で弓なりに痙攣した。

 その瞬間を、拓也は、彼女の太ももの間で感じ取っていた。

 自分の行いが、一人の女を、完全に無防備な快楽の生き物へと変貌させた事実。

「ふぅっ、ふうっ、ふうっ」

 典子がベッドの上で荒く息を漏らしながら、ごろりと転がった。久しぶりの絶頂だった。

 乱れたシーツの中にうつ伏せに倒れている。

 その白い小さな身を、黒い大きな影が覆った。

 見上げると、影の主である男性がそこにいた。

 彼の目には、これまでにない欲望の色がはっきりと宿っている。そしてその下半身は、先ほどまでとは別物になっていた。

 ──あ……男になった。

 拓也は、ベッドサイドの引き出しからコンドームを取り出すと、それを装着した。

 この瞬間、夫婦の空間は、夫婦ではない男と女の空間となった。

「……今度は、俺の番だよね?」

 低い声に、典子は少しだけ震えながら、頷いた。腰を浮かして、彼が自分の尻に触れるよう促す。そして彼の侵入を、その身に受け入れていく。

 それは背後から始まった。

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