エクリプス・リンク~死にゲーを極めた俺が大人気VRMMOで最強を目指す~
ぜあゆし
1章 傲慢編
プロローグ 死にゲー廃人
――【死にゲー】。
別名【ソウルライク】
何度もプレイヤーを殺しにくる、理不尽かつ高難度のアクションゲーム。
敵の攻撃は致命的で、たった一撃でゲームオーバーになることも珍しくない。いわば死と隣り合わせのゲームだ。
だが、その苛烈さこそが中毒性を生む。
死に続け、試行錯誤を繰り返し、ついに勝利を掴む瞬間。その達成感はどんな娯楽にも勝る。
そして、そんな世界に魅せられた青年が一人。
高校二年生。
教科書より攻略本、部活よりボス戦。
寝ても覚めても『死にゲー』漬けの日々を送る、筋金入りのゲーマーである。
今まさに彼は、死にゲーである【ライトソウル3】の100週目のラスボスと対峙していた。
下着姿で木の棒を握り締める全裸の凪と、炎を纏わせた剣を持つ漆黒の装備を纏ったラスボス。
「お前の顔を見るのも100度目だが、これで最後だ」
振り下ろされる巨大な刃。
大地を裂く炎撃と雷撃。
常人なら反応すらできない速度の攻撃を、凪は無駄のない回避動作でいなし、隙を突いて木の棒を叩き込む。
凪は一撃も食らわない。食らうはずがない。
これまで何百と見てきたラスボスの攻撃。
パターンは全て凪の頭に入っている。
対して凪の攻撃は木の棒による打撃。
木の棒は筋力補正が少しだけしかついていない今作最弱の初期武器だ。
一見、全くダメージが入らないように思うかもしれない。
けれどラスボスのHPゲージを見れば一撃で一割以上も削れている。
何故なら彼は筋力だけにステータスを振った筋力極振りビルド。
そのため木の棒でもようやくほかの武器と同等ぐらいの威力になっているのだ。
もちろん凪は一撃でも食らえば即死。
回避行動もスタミナ不足で最大三回しか出来ない。
攻撃もスタミナ不足で一回ずつの単発攻撃のみ。二発以上打てばスタミナが枯渇し、次の行動が出来なくなる。
けど凪にとってそれぐらいのハンデで十分だった。
ラスボスによる振り下ろされる黒き大剣。
地響きと共に炎と雷がほとばしる。
しかし凪の身体は、既にそこにはいない。
ボスの動きを読み切ったかのように、最小限の回避で死地を抜け、木の棒を振り下ろす。
カンッ!
乾いた音が響く。
黒き巨躯がよろめき、HPゲージがごっそりと削られる。
「あと三発!」
凪は冷静そのもの。焦りも恐怖もない。
あるのは100周目にしてなお、なお研ぎ澄まされた勝利への執念だけだ。
「オオオオオオオォォォ!」
ボスの咆哮。
怒り狂ったかのように、連撃が襲い掛かる。
炎の斬撃、雷の突き、そして大地を震わせる衝撃波――
それを、凪はすべて知っている。
無駄のないローリング。 最小限の歩法。
そのすべてが芸術的な精度で、死を寸前でかわしていく。
――三連撃のあと硬直二秒。
一秒で攻撃一発分のスタミナの回復を待ち、残りの一秒でボスに再び棒を叩きつける。
そして残りHPゲージが赤く染まる。
――あと一撃。
凪は深く息を吸い込んだ。
ボスの最終フェーズ、必ず放ってくる広範囲攻撃。
大剣が高く振り上げられる。
天地を焼き尽くす最期の斬撃が凪に襲い掛かる。
ちなみにこの攻撃は絶対に距離を取って避けなければならない、いわゆるラスボスの奥義。
本来は避けてから、その後隙で仕留めるのが正規攻略ルート。
しかし今の凪のステータスではラスボスから距離を取る敏捷もなければ、スタミナもない。
であればジャストパリィで無効化するべきか?
否。貫通属性であるため無敵のジャスパですら攻撃が入る。
もちろん威力減衰はかかるため一般のプレイヤーなら選択肢には入るが、装備を着てない耐久力ゼロであり、HPの少ない凪では意味をなさない。
であればどのようにして勝つのか。その答えは一つのみ。
――ローリングだ。
ローリング、いわゆる回避行動には無敵時間が含まれている。
その無敵時間は装備の重量が軽いほど長くなり、装備を木の棒しかつけていない凪の無敵時間は最長の17フレーム(0.28秒)。
対するボスの奥義は16フレーム(0.26秒)。
誤差にして0.02秒。
瞬きどころか、人間が感じることの出来る時間より短い。
その刹那のタイミングを凪はこれまでの経験と異常なまでの反応速度で見定める。
「――ここだ」
凪はラスボスが大剣を振り下ろした瞬間、勢いよくラスボスに向かってローリングする。
凪を中心に、途轍もない衝撃と爆炎が巻き起こるが無敵時間により凪はノーダメージ。
「これで終わりだ」
凪はローリングからゆっくりと起き上がる。
ラスボスの奥義によって生まれた大きな後隙に、凪は木の棒を勢いよく振り下ろした。
振り下ろされた木の棒が、ボスの頭蓋を正確に打ち抜く。
「――ッッッ!!」
黒き巨体は膝をついて崩れ落ちた。
HPがすべて削られたラスボスは、その後灰となって跡形もなく霧散する。
「ふぅ。100戦目もノーダメクリアか」
凪は手慣れた手つきでラスボスの大剣を拾い上げる。
(1フレーム回避って名前自体は玄人っぽくて格好いいけど、ラスボスの奥義の前で堂々とローリングする絵面はちょっとダサいんだよなぁ)
そんなことを考えながら凪は大剣を用意されていた台座に突き刺す。
すると暗黒の大地に太陽が昇り、一筋の光が差した。
「太陽万歳!」
凪は決まり文句のようなものを、両手を掲げて口にする。
これで全武器による全ボス攻略達成。
既に全アイテム回収、全ルート、全シナリオ回収済みであるため、正真正銘、今作の完全制覇である。
画面が暗転し、見慣れたスタッフロールが流れる。
凪はライトソウル3からログアウトしてVRのヘッドギアを外した。
「ふぅ、流石に慣れてても一回で全クリは疲れるな」
自室のベッドの上で凪はそんな言葉を漏らす。
プレイ時間は六時間。
平均クリア時間は三十時間であるためクリア時間自体はとても速いが、六時間もVR世界にダイブしていると疲れも積もる。
時計に視線を移せば既に時計の針は午前二時を回っていた。
曜日は月曜。五時間後には学校が始まっている。
「さて……次はどの死にゲーをやろうか」
そんなことを考えながら凪はベッドの上でゆっくりと瞼を閉じた。
この時の凪は知らなかった。
この日を境に、自分の“死にゲー人生”が大きく変わることを――
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