第42章 — 王子たちの決闘
玉座の間の空気が凍りついた。
メアリーは一歩前へ踏み出した。
彼女の瞳には、怒りの炎が燃え盛っていた。
その視線の先には、彼女のすべてを壊した女——ローズが立っている。
裏切りの記憶。痛み。
そして、自分が死んだあの日の絶望が、冷たい刃のように胸を貫いた。
――「あなた……」
声が震える。
「本当に……化け物ね……」
だが、ローズは優雅な笑みを崩さなかった。
まるで何事もなかったかのように、無垢を装い続ける。
その偽りの微笑みが、メアリーの理性を完全に砕いた。
彼女は床を蹴り、一直線にローズへと突進した。
足音が大理石の上で鋭く響く。
次の瞬間、メアリーの手がローズの頬を掴み、爪が肌に食い込んだ。
――「こんな汚らわしい女が」
怒りのこもった声が、震えながら吐き出された。
「どうしてそんな偽善的な笑顔を浮かべていられるの?」
「毒と牙を隠して……そんな顔で!」
ローズの瞳が一瞬見開かれた。驚愕。
だがすぐに、彼女も怒りを露わにし、メアリーを突き飛ばした。
――「放しなさい、この娘っ! 正気を失ったの!?」
メアリーはよろめきながらも、視線を逸らさなかった。
息を整え、血のように濃い憎悪を胸に燃やす。
ローズは頬に残った指の跡を拭い取り、姉を見下ろすように冷笑した。
その瞬間——
鋭く、冷たい声が玉座の間に響いた。
――「もう、茶番は終わりだ。」
ヘイタンだった。
第一王子は、その声に反応して振り返った。
しかし、次の瞬間、彼の動きが止まる。
首筋すれすれに、銀色の刃が突きつけられていた。
背後に立つ男——ヘイタンの瞳が、氷のように冷たく兄を射抜いている。
――「お前……いつの間に……」
「気づかないとはな」
ヘイタンは口元に皮肉な笑みを浮かべた。
「王族のくせに、後ろも見えないとは。滑稽だな。」
第一王子は歯ぎしりをした。
「この剣をどけろ、この出来損ないめ!」
だが、ヘイタンは剣をさらに押しつけた。
そして力任せに突き飛ばす。
第一王子の身体が大窓の手すりにぶつかり、外の景色が広がった。
その下では、広場に集まった民衆が怒号を上げ、炎を掲げていた。
――「よく見ろ、兄上。」
ヘイタンの声が響く。
「これが……無能な王の末路だ。」
「お前が盗んだ玉座は、そのままお前の墓になる。」
第一王子は息を荒げながら叫んだ。
「お前……そんなこと、できるはずが……」
ヘイタンの瞳が細まる。
「俺を甘く見るな。」
彼は兄の襟を掴み、さらに身を乗り出させた。
宙に浮く第一王子の身体が揺れる。
民衆はその光景を見上げ、歓声を上げた。
――「今日、この愚か者の治世は終わる!」
「真なる王子、ヘイタンが戻ったのだ!」
広場が轟いた。
「ヘイタン! ヘイタン! ヘイタン!」
怒りに満ちた第一王子は叫んだ。
「この裏切り者がっ! 放せぇぇぇ!」
しかし、悲劇は突如として訪れた。
ヘイタンの護衛の一人が隙を見せた。
そこを突き、第一王子に忠誠を誓う兵士が横から飛び出した。
剣が閃く。
――「危ないっ!」
メアリーの叫びが響くが、もう遅かった。
ヘイタンは振り向きざまに剣を構え、辛うじて防いだ。
金属音が玉座の間に響き渡る。
だが、相手の刃は彼の左腕を深く切り裂いた。
――「くっ……!」
血が床に滴る。
ヘイタンは痛みに顔を歪めながらも、素早く反撃した。
黒い刃が敵兵の胸を貫き、鈍い音を立てて崩れ落ちた。
メアリーが口元を押さえ、息を呑む。
ヘイタンは荒い息を整えながら、流れ落ちる血を押さえた。
その時——
死んだ兵士の剣が床を転がり、第一王子の足元で止まった。
男はゆっくりとそれを拾い上げた。
その瞳に宿るのは、もはや恐怖ではなかった。
――憎悪。
「そうか、ヘイタン……」
第一王子はゆっくりと口を開いた。
「背後から刺して終わりにするつもりだったのか?」
そして、嗤った。
「いや……王子らしく、決着をつけようじゃないか。」
ヘイタンは息を荒げながらも、右手で剣を構え直す。
二人の兄弟が向かい合う。
一人は傷つきながらも凛と立ち、
もう一人は狂気に呑まれ、剣を握りしめる。
玉座の背後で、血と野心が煌めいた。
ローズは一歩下がり、興奮したようにその光景を見つめている。
メアリーは拳を握りしめ、心臓が早鐘を打っていた。
――過去と現在が交差する。
――二人の王子、二つの未来、一つの王冠。
沈黙。
そして、第一王子が踏み出した。
金属の響きが、静寂を裂いた。
王子たちの決闘が、今、始まった。
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