第24話
レアナの叫び声が暗い廊下に響き渡った。
その直後、金属の刃が空気を切り裂く鋭い音が続く。
侵入者は素早く、そして正確にレアナの腹部へと剣を突き立てた。
乾いた音が鳴り、鉄と血の匂いが空間を満たす。
男が剣を引き抜くと、温かい液体が飛び散り、石畳に黒く光る染みを作った。
倒れた蝋燭のかすかな灯りに、それは不気味に輝いていた。
メアリーはその場に膝をつき、動けなくなった。
恐怖が顔に刻まれ、目を見開いたまま声も出せない。
レアナはふらつきながら、手で傷口を押さえ、指の間から血が溢れ出ていた。
彼女は振り返り、唇を震わせて呟く。
「……逃げて……」
その声は、最後まで届くことなく消えた。
男は冷たい笑みを浮かべ、血に濡れた剣を軽く振った。
「ずいぶん簡単な仕事だな。」
軽蔑するような声で言い放つ。
「後は、もう一人の小娘を片付けて……それから“お嬢様”の番だ。」
彼はゆっくりと歩き出し、床に倒れたエステファニーの方へ向かった。
エステファニーは必死に体を起こそうとしたが、足が震えて力が入らない。
それでも、友の倒れる姿に目を背けることはできなかった。
その瞬間、レアナが残された力を振り絞り、男の服の裾を掴んだ。
わずかに動きを止められた男が、苛立ちをあらわにして見下ろす。
「……まだ生きてやがるのか。」
怒声とともに剣を振り上げる。
無情にも、再び刃が突き立てられた。
レアナの身体が跳ね、喉の奥から苦痛の声が漏れた。
メアリーの悲鳴が廊下に響き、エステファニーは涙と血にまみれながら嗚咽した。
男はゆっくりと振り返り、血に濡れた刃を構える。
「さあ……次はお前だ。」
薄笑いを浮かべ、メアリーへと一歩踏み出した。
だが、その瞬間——メアリーの中で何かが音を立てて崩れた。
恐怖が怒りに変わり、怒りが狂おしいまでの憤怒に変わる。
視線の先、タビオの落とした剣が床に転がっていた。
かつて彼が命を懸けて守ろうとした証。
メアリーは震える手でその柄を握りしめた。
男が嘲笑する。
「はっ……その腕で俺に刃向かうつもりか、娘っ子?」
彼がレアナの体から剣を引き抜こうとした瞬間、
レアナは最後の力を振り絞って男の腕を掴んだ。
「ぐっ……この女!」
男が怒鳴り、腕を振り払おうとした——その時。
メアリーの足音が廊下に響く。
怒りと悲しみだけを燃料に、彼女は全力で駆けた。
次の瞬間——
剣が空気を切り裂き、静寂を破った。
鋼の音が響き、血の飛沫が宙に舞う。
時間が止まったかのようだった。
男の目が見開かれ、驚愕のまま固まる。
「……くっ……の……」
言葉を紡ぐ間もなく、血が口からあふれ、男は崩れ落ちた。
メアリーは立ち尽くしたまま、まだ剣を握っていた。
荒い呼吸が静寂に混じる。
エステファニーは震えながら泣き続け、その頬を涙が伝う。
レアナは床に横たわり、かすかに微笑んだ。
メアリーの無事を見届けるように、静かに目を閉じた。
その時——
図書室の扉が激しく開かれ、数人の衛兵が駆け込んできた。
彼らの目に映ったのは、血に染まった二人の少女と、倒れた三つの人影。
メアリーは震える手で剣を手放し、衛兵たちを見つめた。
誰も言葉を発することができなかった。
ただ、遠くから——
鐘の音だけが、悲しげに鳴り響いていた。
それはまるで、城全体が嘆きの中に沈んでいるかのようだった。
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