絶筆アップルパン

珠邑ミト

第1話


 最初に、「ああ、私は、みんなとちがうんだ」と気付いたのは、父から「いい加減、本を売るか捨てるかしろ」と、眉をひそめられたときだった。

 不快をかくさない父の眉と目元は、見なれたそれだった。だけれど、父が怒りと呆れをこめて、私の部屋のドアを音高らかに閉めようとした試みは、結果的に失敗に終わった。

 私が溜め込んだ大量の書籍によって、部屋が歪み、ドアの建付けが悪くなっていたからである。

 ぎしぎしとかわいそうに、ドアと枠は擦れあって悲鳴をあげる。父は、ああともうんともつかないうなり声を喉の奥で引き絞りながら、ドアノブをなんとか引っぱって、ようよう、がちん、と閉め切った。

 重量級の父が、階段を、どすどすぎしぎしと降りてゆく。それもなかなか家屋にダメージを与えている気がするのだけれど、まあ、ここは彼の建てた家なので、私の口出しするところではなかろう。

 さて、なんとしたものか。

 申し訳ない半分、疎外感四分の一、最後の四分の一でセンスの違いに苛立ちと諦観をおぼえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る