第4話 初対面①

「握手券?」


 突然叶愛の手によって渡されるアイドルの握手券。このアイドルの握手券は確か妹も加入している最近徐々に人気が出てきているグループのものだ。


「リーダーの結城先輩の握手券。今なかなか手に入らないんだよ」


「へー」


 別に俺はドルオタでは無い。何か推すなら間違いなく糸さんのことを推すだろう。もちろん他の男に推させることはしない。


「興味無さそうだねぇー。でも距離を置くためにも兄さんにも暇つぶしは必要でしょ?」


「まぁ」


 でしょ、と何か嬉しそうな表情で笑う叶愛。


「とりあえず来てみてよ。兄さんは特別に家族特権で会場の裏から見ることも出来るし」


 会場の裏か。あまりアイドルをのことを知らない俺でも芸能人の裏を見ることが出来るであろう裏側は結構気になる。


 それも叶愛が加入しているアイドルグループ。今、糸さんに強く関わることが出来ない以上アイドルに意識を割くのも悪くないかもしれない。


「最推しは叶愛にしてね!」






 握手会の日がやってきた。この一週間、糸さんとは全く関わらない、までは行かなかったけど以前よりは距離を置けていると思う。


 未だ他の男の話しているのを見ると非常にイラつくし、間に入り込みたい衝動に駆られるけどぐっと我慢してこの握手会のことを考えた。


 叶愛によって渡されたアイドルグループ『sherbet』のリーダー、結城姫華さんは俺の1つ上、つまりは高校三年生であるらしい。


 そしてこの間行われた人気投票で見事1位に輝いたとか。人気投票って結構残酷だなぁ、と思わないことは無いけれど1位というのは正直にすごいと思う。


 ん、叶愛はだって?もちろん2位だ。俺の中では叶愛は圧倒的に1位だし、実際1位じゃないことに疑問はある。

 でも結城さんと僅差だったらしいし次は1位に輝くに違いない。


「結構会場に近くなってきたから兄さんも慎重にね」


「おう」


 今、俺は妹に連れられてライブ会場に向かっている。流石に会場の席は既に埋まっているらしく壇上の裏からなら見れるとのこと。


 叶愛は今、軽く変装をしている。普段外を歩く時はしていないが流石にsherbetのファンが集う会場付近では変装しているとか。


 サングラスに帽子を深く被ってマスクもしている。これだと逆に目立ってしまいそうだけど……。


 人気芸能人って大変だなぁ。


「着いたよ」


「ここか」


 着いたのはいかにも裏口、といった感じの扉がついた建物。表通りには結構人がいたけどあの人たちが叶愛達のライブを見に来ている人たちかな?


「入ろう。たくさん女の子いるからね」


「任せとけって」


「ふふっ、何をだよっ」


 糸さんとしか女性とはまともに関わってきてことがない俺だけども、まあ大丈夫だろう。だって叶愛がいるしね。


 叶愛がいなくて仮にグループの人と2人っきりにさえならない限り平常心で入れるはずだ。そもそも俺は糸さんの彼氏、他の女の子にデレデレするようなことはないし。


 建物内に入るとまず最初にいたのは警備員さんだった。叶愛はグループのメンバーとしてサクッと通れたけれど、俺はなかなか苦労した。


 なんとか叶愛の説明もあって警備員を突破。次に足を運んだのは御手洗。

 俺は一応の確認と叶愛の変装をとくためである。


「やっぱり叶愛はそのままが可愛いな」


「ちょ、突然やめてよ兄さんっ!」


 耳が赤くなってて可愛い。本当我が妹ながら可愛いよな。こりゃ世のsherbetファンからチヤホヤされるわけだ。

 先程の変装姿もそれはそれで可愛らしさが溢れてたけど、やはりそのままの叶愛の可愛さには敵わない。


「ここが楽屋だよ」


「来たか」


 小さなライブ会場ということもあって楽屋は2つしか無いという。それに1部屋はスタッフさん達が使っているらしいからこの扉の先にはsherbetの皆さんが全員揃っているというわけだ。


 糸さんと話すという訳じゃないのになんだか胸がドキドキしてくる。まるでこれから新しい出会いが待っているかのごとく。

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