黒髪黒目男子は貞操逆転の世界で希少種扱いされるようです

すりたち

第1話 夢見心地の膝枕

その日、俺はひどく疲れていた。

 朝から動きっぱなしで、昼もまともに休めず、夜には全身が鉛のように重くなっていた。布団に倒れ込んだ瞬間、もう何も考えられなくなり、深い眠りに引きずり込まれていった。


 ――けれど、その眠りは、いつもと違った。


 頬を撫でるやわらかな風。どこか甘い草の香り。耳に届く鳥の声。

 そして何より、頭を支えている感触が、信じられないほど心地よい。ふんわりとしていて、温かくて……。


(……夢だな。これ、気持ちいい……)


 そう思うだけで、胸の奥がふわりとほどける。

 俺は安心してまぶたを開けた。


 そこにいたのは、一人の少女だった。


 陽光を受けてさらさらと揺れる髪は、銀色に近い淡い金色。光の加減で白銀にも見えて、目を奪われる。

 透き通るように白い肌は、陶器のようにきめ細やかで、頬にはほんのり赤みが差していた。

 瞳は澄んだ湖を思わせる碧色。吸い込まれそうに深く、まっすぐにこちらを見つめてくる。

 整った顔立ちはまだ若さが残っているのに、儚げな美しさを纏っていた。


 そして気づく。俺の頭は、確かに彼女の太ももの上にあった。


「……起きた?」


 耳に届いた声は柔らかく、澄んでいて、胸の奥に染み込むようだった。

 だが俺は夢だと信じていたから、驚きもせず、ただぼんやりと彼女を見つめ返すだけだった。


 ふと、目に入る。

 彼女の胸元。衣服の隙間から覗く谷間。近すぎる距離に、思わず息を止める。


(……お、大きい……)


 夢だから、と自分に言い訳しながら見惚れてしまう。

 胸の奥が熱くなり、心臓が妙に騒ぎ出す。


 そんな俺を見つめながら、彼女が小さく口を開いた。


「……あの、ちょっとだけ……体、触ってもいい?」


 声はかすかに震えていた。抑えてきた衝動が、とうとうあふれ出したように。


「……ん……いいよ……」


 俺は半分眠ったまま、考えもせずに答えた。夢なのだから、何をされても構わない。そう思っていた。


 次の瞬間、彼女の細い指先が俺の胸に触れた。なぞるように動かされると、背筋に小さな震えが走り、喉から息が漏れる。


「……っ……」


 彼女自身も声を震わせていた。触れているのは俺の体なのに、頬を赤らめ、唇を噛みしめ、息を荒くしている。


(……なんだか……不思議な気分だ……)


 その仕草に気を取られながら、俺の手も自然に動いていた。


「……俺も、少しだけ……」


 つぶやくように言い、視線の先にある柔らかな膨らみへと手を伸ばす。

 掌に触れた瞬間、ふわりとした形と温もりが広がり、思わず息を呑む。


「ひゃっ……!」


 甲高い声が弾け、彼女の体がびくりと震える。

 次の瞬間、羞恥と驚きに突き動かされたように彼女は飛び退いた。


「うわっ――!」


 支えを失った俺の頭は、地面にごつんと落ちる。鈍い衝撃が走り、意識が一気に覚醒した。


 慌てて上体を起こすと、彼女は顔を真っ赤に染め、胸元を両手で押さえていた。荒い呼吸を繰り返しながら、俺を見据えている。


 互いに言葉を失い、ただ見つめ合った。

 沈黙。

 風が木々を揺らす音だけが、やけに鮮明に響いた。


(……これ……夢じゃない……よな)


 胸の奥で呟く。

 残る熱も、掌に刻まれた感触も、現実そのもの。


 心臓は乱れたまま、気まずさと高揚がないまぜになって胸をかき乱す。

 俺はただ、呆然と彼女を見返すことしかできなかった。

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