22話 誤解
「ユリウスのスーツ姿尊い。私は、この為に存命していた気がする」
「大袈裟な気がするけど、どうもありがとう」
「リドゥルさんと同感です。私がこの世に生を受けたのは、ユリウスさんのスーツ姿を見る為だったのかもしれません」
「知り合ったの半年前だけどね、どうもありがとう」
道中の馬車、二人はとにかく俺を褒めてくれていた。
嬉しい反面、本当に似合ってるのかなあと不安もある。
そもそも、俺は田舎の村のただの平民だ。ついこないだまでは黙々とソロで狩りをしつつ、周りから茶化される毎日だった。
だからだろうか。素直に喜べない自分もいた。
でも、リドゥルと出会ってからは幸せな日々を送れている。
まあ、命を狙われたりもしているけれど、それはそれで楽しいからいい。
元から狩りは好きだった。
ただそれが人間に変わっただけだと思えば不思議ではないか。
俺の夢は、人から尊敬されることだ。
もっと強くなれば、きっとその夢は叶う。
――もっと、頑張らないとな。
「ユリウス、到着したよ」
リドゥルの声で馬車が止まっていたことに気づく。
外に出る前から賑やかな声が聞こえていたが、馬車に降りた途端、大勢が屋敷に入っていく。
場所はペルポの郊外だ。かなりデカい家で驚いたが、子爵家というからにはこのくらいはあるのだろう。
庭園は開放的で噴水まである。凄い……。
みんな貴族なのかわからないが、高級そうなドレスやスーツを身に着けている。
今までこんなの縁がなかっただけに緊張していたら、甲高い声が響いた。
「よお、きてくれてありがとうな!」
視線を向ける。そこにはビアンカさんが立っていた。
だがその姿に身体が固まる。
それは俺だけじゃなかった。リドゥルは冷静だが、ランさんまで目をまん丸とさせている。
いつも冷静な姿しか見なかったので、俺も驚いているが。
なぜならビアンカさんの姿はスーツではなく、真っ赤なドレスだったからだ。
「え、び、ビアンカ……さん?」
「どうしたんだユリウス、何か……変か?」
「え、いや、その……え? え?」
おかしい。記憶を辿ってみる。
ビアンカさんは……え、女性だったのか?
いや、ランさんは確かに男性だといってなかったか?
「ビアンカ、誕生日の主役とはいえ、お客様は丁重に扱えよ」
「言われなくてもわかってるよ。――兄貴」
するとその横、ビアンカさんより少したくましい姿をしたスーツの男性が、貴族たちを案内していた。
え、そ、そういうこと!?
「ビアンカさん、もしかして……いやごめん失礼だとはわかってるけど……女性だったの?」
「え? そうだけど? どゆことだ?」
……マジかよ。
いや、確かによく考えるとショートカットの女性に見えなくもない。
これはまさかすぎる。あまりに驚いていたら、リドゥルがジト目をしていた。
「ドレス、似合ってる」
「そういわれると嬉しいぜリドゥルぅ。お前もめちゃくちゃ綺麗だな!」
屈託のない笑みでビアンカさんはリドゥルを褒める。
リドゥルも、少しだけ照れた。
俺は、小声で話し掛ける。
「リドゥル、もしかしてわかってたの? その、ビアンカが女の子だって」
「? 当たり前。どう見ても女だった。だから、ユリウスに近づいてほしくなかった」
……そ、そうだったのか。
記憶を思い返す。戦闘に参加していたが、手慣れた感じではなかった。
上位冒険者を護衛につけて魔物を狩っていたといっていたし、そう考えればすべて合点がつく。
「すみませんユリウスさん、私、どうやらお兄様のほうと勘違いしていたみたいです……」
「あ、いや、俺も……」
分かっていたのはリドゥルだけだったのか。
でも確かによくよく考えると、ビアンカって名前は女性だ。
凄いなリドゥルは、何もかも理解してただなんて。
「飯もいっぱいあるし、まあくつろいでくれよ! 命の恩として安いかもしんねえが、マジで助かったぜ!」
「あ、いや、とんでもないです。その、ビアンカさん」
「どうした?」
「なんで狩りなんかしてたんですか?」
純粋に疑問だ。貴族で、なおかつ女性が冒険者なんてやる必要がない。
貴族でも強くなれとうるせえからな、と親が言っていたとはボヤいていたのは聞いていたけれど……。
すると、ビアンカは少しだけ気まずそうにした。
「ほら、ペルポってうちの領地だけど、治安あんま良くねえだろ。それは、悪いと思ってんだ。でも、口だけじゃ正義はなりえない。だから、強くならなきゃなってな。まあ、親父の受け売りだけどな。もっと、みんなの指標にならねえとな」
その言葉は俺の心にもの凄く響いた。
貴族は凄いと思っていた。でもそれは生まれの良さのおかげだと。
でも違うんだな。志が大事なんだろう。
ペルポはきっとよくなる。それが、凄くわかった。
そうか。大勢に尊敬されるってこういうことかもしれない。
壮大な夢かもしれないが、俺もいつか、自分の領地を持ってみたい。
「凄くいいと思います」
「そうか? そう言われると照れるなぁ! ちょっとほかにも相手しなきゃなんねーからさ、適当に中で寛いでくれよ! じゃあな!」
ビアンカさんはそのまま離れていく。
凄いなあ。
俺も領地を持ってみたい、なんて呟いていたら、リドゥルとランさんが何やら話していた。
◇ ◇
「リドゥルさん、ユリウスさんの……聞きましたか?」
「聞いた。私が、ユリウスのために領地を作ってあげる。そしていずれ、世界のトップにする」
「……私も、同じ気持ちです」
二人は、ひそかにユリウスと同じ? 壮大な夢を呟いた。
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