14話 無自覚
夕方過ぎ、ギルドにようやく到着した。
武器を持ったまま森を抜けるのが思っていたよりも大変だった。
査定があるので、武器屋に手渡してきた。
結構いい品物だったし、買い叩かれたとしてもそれなりの金額になるだろう。
ギルドの扉を開ける。
明日は祝日ということもあって、中は閑散としていた。
みんな酒が好きだし、遊びに出かけているのだろう。後は、女か。
けれどもテーブルの一角で、リドゥルとランが何やら話し合っていた。
俺がいない間に仲良くなっているみたいで、嬉しいやら、少し寂しいやら。
俺に気づき、声を上げた。
「ユリウス!」
ダーンと椅子を倒しながら、リドゥルが立ち上がる。
恐ろしい速度で駆けよってくると、後ろに倒れそうなほど抱き着いてきた。
お腹に顔をうずめる。
そんなに心配してくれていたのか。
「ちゃんと無事だよ。怪我もないし」
「良かった……ユリウスに何かあったら世界を壊そうかと思ってた」
「怖いからそういう冗談はダメ」
「本気」
「余計にダメ」
「わかった」
元魔王だということをいつも忘れそうになるけど、身体が治ったらありえそうだ。
そこで、ランさんも歩み寄ってくれる。
「ユリウスさん、ご無事でよかったです」
「ちゃんと討伐してきたよ。素材は多かったから先に解体して渡してきた。これ、証明書」
素材が少ない場合はギルドにお願いするが、多い場合は隣接している解体所へ持っていく。
解体所にお願いした場合は、証拠として紙を手渡さなきゃいけない。
「確かに受理致しました。ご依頼完了です! 討伐、ありがとうございます!」
いつものランさんの声量と笑顔が落ち着く。
でも、やっぱり頭に土下座がちらついた。
早く、頭から消えてくれたほうがいいかも。
俺を襲ってきた奴らのことを話そうとしたら、ランさんが神妙な面持ちで続けて話かけてきた。
「ユリウスさん、大変なことがわかってしまいました」
リドゥルも緊張している感じで、何だかただ事ではないと気づき、ひとまず俺の話は後回しにする。
ここでは少し……となり、待機室まで移動した。
テーブルと椅子しかないが、防音魔法がしっかりしている。
続いて見せてくれたのは、数枚の紙だった。
「なにこれ……
物騒な名前だな。一体、これが何なのだろうか。
「彼らは国を渡り歩いている傭兵集団です。冒険者ギルドで指名手配されていました。メンバーは元騎士や元上位冒険者などで構成されております」
「そんな奴らが……どうしたの?」
「この街に潜入してきたらしい。それも、私を売っていた奴隷商人と連絡を取ったと」
リドゥルの補足に、ちょっとだけ思い当たるフシが。
……いや、流石に違うか。
「裏社会に通じている情報屋からタレコミがあったと記録にありました。公にはできませんが、ギルドは、有力な情報だと買い取りしているんですよ。奴隷自体は合法なので法で裁くことはできませんが、ロングという老人の卑劣な噂は私も耳にしております」
情報の買い取りは噂で聞いていたが本当だったのか。
ちなみに、リドゥルが元魔王だとはランさんに伝えていない。
教えることで危険になる情報だし、リドゥルは特異体質で回復したと伝えている。
能力をもらったことについても詳しくは話していないが、おそらく気付いているだろう。
「そいつらの特徴は?」
「わかっているのは一部の名前だけなんです。ただ相当な実力者の集まりです。彼らに目を付けられたら最後。凄腕のA級パーティーですら壊滅した、との話もあります。ユリウスさんとリドゥルさんと関係があるのかはわかりませんが、まずは名前を周知しておこうと」
「名前だけでもありがたいよ。俺は真名が見えるから」
「ああ、そうでしたね!」
顔を隠していてはわからないが、姿さえ現せば気づく。
警戒していれば、それだけで有利だろうしな。
「一人目はベルス・ガルム。凄腕の傭兵で実力はすさまじく、冷徹な殺し屋と言われています。わかっているのはこれだけですが、この情報を知っているのは冒険者ギルド内でもごくわずかです」
「…………」
あれ? 聞いたことあるよね?
「二人目は、ファスト・リグレール。魔力の痕跡を消すことができる、という
「大丈夫。私がユリウスを守る。そんな奴ら怖くない」
「リドゥルさん、私もです。ギルド職員としてはもちろんのこと、ユリウスさんに恩返しするため、身を挺してでも守り抜く覚悟です」
二人が覚悟を決め、目を合わせる。
それからふたたび、ランさんは知っている情報を俺に伝えようとしてきた。
だが俺は知っている情報を答える。
風貌というか、マスクをしていることだとか、武器以外持っていないとか。
当然、ランさんは驚いていた。
「な、なぜそこまで知っているのですか!? もしかして、タレコミ屋と接触してきたのですか?」
「ユリウス、凄い」
「いや、接触したのは……
俺の言葉に二人が首を傾げた。
確かに訳が分からないよな。いや、俺も驚いた。
俺は、雑魚冒険者と周りから揶揄されてきた。
それはもちろん、低級な魔物ばかり狩っていたからだ。
そんな俺が、そこまでの手練れたちに勝てるわけがない。
「どういう意味ですか?」
「全員殺した。森で狩りをしていたら俺を狙おうとしてたんだ。確かに魔力はなかったけど、人間特有の気配がした。死体は森の中にある。何だったら死体を見に行ってもいいけど、魔物がすでに持っていってるかも。でも、明らかに弱かった。ギルドの情報が間違ってるんじゃない?」
死体まで持ってきたらよかったか。
いや、さすがに野蛮すぎるか。
けれども、ランさんは首を振る。
「それはあり得ないと思います。ギルドの情報は、本部が管理していますから」
でもおかしい。そうなると、俺は傭兵集団を一人で倒せたことになる。
……心当たりは――もしかして。
リドゥルは、とてもうれしそうだった。
俺は、過去の言葉を思い出す。
『それで、どうして俺に能力をくれた?』
『ユリウスのためになると思ったから。私を助けてくれたんだから、能力を授けるくらい当たり前』
「リドゥル」
「どうしたの? ユリウス」
「……俺に、能力をくれたのって、一つだけだよな?」
するとリドゥルは首を横に振った。
「私は、私のすべてをあなたに捧げるといった。――だから、私の持っていた能力、すべてをユリウスに渡した」
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