第50話 唯一の弱点
「あー、もう! 真一おじさまって素敵!! 本当にイイ!」
「なによ、人ん
宮城県松島市、航空自衛隊松島基地がある飲食店街の片隅に、ひっそりと建つ一軒の居酒屋があった。
屋号を「
この、一見すると筋金入りの酔っ払い御用達に見える居酒屋には、不釣り合いな若い女性の姿があった。
一人はロングヘアでストレートが異様に美しい細身の女性、性格はサバサバとした印象だ。
もう一人も肩くらいまでのボブヘアに色白で上品な印象である。
しかし、二人の飲み方は年季の入った中年男性と肩を並べるレベルに、安定感すら感じさせるものがある。
一人は
二人は幼い頃からの腐れ縁で、大人になった現在でもこうして酒を酌み交わす仲である。
しかし、この二人の心境は些か複雑であった。
冴子は、ある程度恵まれた環境で育ち、何不自由なく育てられてきた。それに引き換え内田 椿はシングルマザーの家庭環境と言うこともあり、父親の愛情を求める傾向があった。
彼女の母親、
結局誰とも結婚せずに一人で椿を産んだ木蓮を、真一は何かと気にかけていた。
冴子が6歳の頃、内田 椿と初めて出会う機会があった。
それは真一が木蓮を自宅へ招いたことから二人の関係が始まるのだが、それは必ずしも良好な出会いとは言い難い。
元々、父親である真一から潤沢な愛情を受けて育った冴子としては、父親から注がれる愛情は空気のように当たり前のものだと感じていた。
しかし、椿は違った。
慢性的に「父親」と言う存在を求める彼女は、目の前に本当の娘である冴子が居てもお構いなしに真一に甘えてきた。
子供心にそれは、冴子にとって不快であり気持ちの悪いものに感じられ、椿への第一印象は最悪であった。
しかし、冴子も元々サバサバとした性格だったことから、嫌悪はしても特段それを表面に出すこともなく、この不思議な人間関係は大人となった今に至るまで継続された。
・・・・もっとも、大人になった今となっては幼馴染であり、性格のキツい冴子にとって、今ではなんでも話せる数少ない女友達と言えた。
そして、椿に対しては自分が思っている事を、何ら隠すことなく全て伝えた上での人間関係が維持出来ていたのである。
「冴子さ、あんな素敵なパパが居て、贅沢だよ」
「・・そう? 欲しい?」
「欲しい・・に決まってるでしょ!・・・・なに、くれるの?」
「いや、ガッツかないでよ、怖いから。別に私の物じゃないって。で・・・・どこがいいの? あのオッサンの」
「解ってないなー。あれが男のシブさってやつですよ。いつまでもお子ちゃまなんだからなー、冴子は」
「えー、あんた、絶対男で苦労するタイプだね。もう少しいるでしょ? 空自なんて男だらけなんだから」
「あれだけ男が居て、真一おじさまは別格なのよーン! はー・・、ねえ、マジでくれない? 真一さん」
「やめてよ。父親の事を『さん』とかキモイから。あんたってばメスの顔になってるわよ、マジで」
「はー・・、いいなー、冴子のママは。代われるものなら代わりたいわよ・・・・」
そう言って机に突っ伏す椿。冴子は心の底から自分の父親の、どこがそれほど良いのだろうと、椿のリアクションが不思議でならなかった。
こうして飲み友達もいない孤高の美女である冴子は、大学でも浮いた存在だった。
基本的に冴子はなんでも出来た。勉強も運動も、周囲が引くほどにそつなくこなす。それだけではなく、絵を描かせれば美術部を軽々抜き去り、音楽をさせればコンクールで入賞してしまうのである。
近所でも有名な美少女だった冴子は、とにかくモテた。が、男子にまったく興味が無かった。そんな事もあり、同性からはあまり好かれるタイプではない。
椿はいつも思っていた、「美人の無駄遣い」だと。
そう言う意味では、椿も同じく美人で優秀ではあるが、真一にぞっこんと言う点では異性に対してやや健全と言えた。
椿は、そんな冴子であっても唯一、異性で彼女を虜にしてしまう男の存在を知っていた。
それは同時に、冴子のアキレツ腱とさえ言えた。
「ねえ、
椿の「蒼君」の一言で、それまで世の中の全てに興味が無いという顔をしていた冴子の表情が、恋する乙女のように色付くのである。
「うん・・・・やっぱりね、ドナーが見つからないとダメみたい。元気なんだけどさ」
十文字
今年16歳になったばかりの高校1年生・・と同等の年齢である。
高校受験には成功したものの、結局彼は未だ一度も学校に登校出来ていない。
心臓に生まれつきの疾患を抱えた彼は、病院の入退院をい繰り返し、現在はドナー待ちの状態を維持していた。
十文字 冴子が唯一心を許す男子、それが彼女の弟である「
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