第48話 新カリキュラム
「こら真一! 稽古をサボるんじゃない!」
恐怖の表情を浮かべる真一が、何かに追われて隊舎の廊下を全力疾走する。
周囲の人間は、これがあの死闘の末に瀕死の重傷を負ったあの十文字真一なのかと目を疑う。
そして、追いかけているのが基地で一番の美人にして高嶺の花である三島美津保であることに、再び目を疑うのである。
「勘弁してくれよ! これ以上訓練したら本当に死んじまうって!!」
周囲は思う、あれだけ全力で走れればまだまだ訓練が出来るだろうに、と。
しかし、美津保の言う稽古とは訓練の事を指してはいなかった。
先の沼津での戦いを分析した対巨大生物武器開発実験群としては、巨大化のサイズに関することと、格闘戦が重要なカギを握ることが重要との答えを導き出していた。
真一と優の訓練は、直ちに格闘訓練を強化するようカリキュラムが組みなおされたが、その訓練を担当しているのは厳しい事で有名な浜松救難隊のメンバーによって実施された。
彼らの中には、陸上自衛隊から手ほどきを受けた者、自衛隊体育学校で訓練を受けた者、一般の格闘技有段者などかなりの粒ぞろいであった。
優は巨大化が解けた直後から、その身体にはほとんど傷も残っていなかったため、翌日から早々に格闘訓練が開始された。
しかし、真一は当初重症だと思われていたが、その回復は異常であり、4日後にはまるで何もなかったかの如く日常を取り戻していた。
そして5日目、流石に早いと思われたものの、優が訓練しているなら自分も、とのことから訓練に復帰した。
ところが、真一はその復帰初日に自分の発言を悔いるのである。
訓練の厳しさは、口から内臓が出るのでは、と思えるほどに厳しいものであった。
救難隊のメンバーも、実は対巨大生物武器開発実験群の依頼を受けて戦闘の映像を分析していた。
その映像が、彼らのハートに火を着けたのである。
自分たちも子供の頃は巨大化するヒーローになりたい、そんな風に思っていた。
そんな憧れのヒーローが目の前に居る。
それだけで彼らの闘志は燃え上がるのであった。
しかし、ここで誤算が生じた。
稼業時間が終わり、すっかりボロボロとなった真一と優の元に、あの三島美津保が訪れたのである。
もちろん、真一は最初、飛び上がるほどに喜んだが、それはぬか喜びと言えた。
彼女が二人の元を訪れた理由は、課外に自身が部長を務める「空手部」に誘う事だった。
不器用な彼女なりの、真一を心配する気持ちからの誘いであったが、入部は半ば強制的に行われる。
「あんたの戦いは見てらんなかった! いいこと、今日から私がみっちり空手を仕込んであげるから覚悟なさい」
優は思わず青ざめた。
それは、日中に自分たちを鍛えていた救難隊の空曹と同じ匂いがしたからだ。
ところが真一は、自分を気遣って来てくれた美津保の事を、もう瞳を潤ませて感動していた。
当然、真一だって日中の訓練で体はボロボロであったが、美津保を気遣って気丈に振る舞う。
しかし、これが良くなかった。
実際に基地の道場へ足を踏み入れると、部員はほとんどおらず、事実上活動休止に近い基地空手部の人数合わせに使われたようなものだった。
しかし、稽古内容は凄まじく、二人はもしかしたら昼間の救難隊の方が優しいのでは、と思えるほどに入部を悔いたのである。
「コラ真一、腰が入ってない! そんなんであの怪獣を倒せるの? 気合を入れなさい!」
おかしい、こんなはずではなかった。
沼津で自分を介抱してくれた美津保はまるで戦場に舞い降りた天使に見えたが、今は般若にしか見えない。
第一、自分の事を真一と呼んで欲しかったのは、精神的な距離を詰めたかったからであり、部活の先輩・後輩になりたくて提案した訳では無いはずだ。
こうして、過酷な一日が終わると真一は優と食事に行き、風呂はシャワーで済ませる事にした。
もう体力が残っていないのである。
「・・・・なあ優、これって毎日続くのかな?」
「・・・・」
「俺でさえこのキツさ、優なんて堪んねえよな」
「・・・・でもさ、みんな僕たちの事を心配してくれての事だから」
「いやさ、でもさ、キツくね? 俺、怪獣と戦っている時より全然キツイんですけど! なにこれ?」
二人は、やはりここは自衛隊なんだと些か進路を後悔し始めていた。
そんな日が三日も過ぎた頃・・・・真一は課外の空手部を逃げ出したのである。
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