第36話 初 恋

 それは、食事を取るためのプレートを配食レーンに並べていた時の事である。

 真一の目は、ただその一点に注がれたのである。


「・・・・優、あれは何だ?」


「あれ? あれってなに?」


「いや・・だから、あれだよ、あの・・・・女性ひと・・」


 真一の心が一瞬で持って行かれるほどのインパクトの女性、年齢は二十代前半くらいだろうか。

 凛々しくも整った顔立ち、何かスポーツでもやっていたのか、作業服の上からでも解る優れたフォルム。そして、何か虚ろとさえ思えるややつり目。長い髪の毛は、規則によりお団子状にまとめ上げられてはいたが、その豊かな髪はとても手入れが行き届いていて、キラキラと輝いて・・。


 真一のド・ストライクがそこには居たのである。


「へえ・・・・真一って、あーゆータイプが好み?」


「え? いるのか? 好みじゃないヤツなんて!! そもそも好みとか、そういうレベルじゃないだろ! おまっ お前!、あの美しさを見て何も感じないのか? もしかして不能なのか? その歳で、あっちは全然なのか!!」


 周囲は一瞬で真一を凝視する。恥ずかしそうな優。


「もう・・・・真一、やめなよ、ワッフ(女性の航空自衛官)が居るし、ここ食堂なんだから・・・・下ネタは、ちょっと。


 そう言われ、真一もさすがに「ヤバイ」と言う表情を浮かべたが、時すでに遅しである。

 その、問題の絶世美女がこちらに向かって歩いてくる。

 真一と優の二人に、緊張が走る。


「ちょっとあんた、一体何なの? 私に何か用?」


「いえ・・・・今日はいい天気です・・ね」


「・・はあ?」


「こんないい日に、仕事なんてもったいないなー・・なんちゃって!」


「・・・・」


 それは、明らかに冷ややかな目線であるが、思いがけず言葉をかけてもらえた事に、真一は既に舞い上がっていた。

 しかし、それは決して好意的な出会いとは言えない悲惨なものである・・・・事に、当の真一は全く気付いていないのである。


「ねえ、行こう美津保みずほ


 同僚のワッフが、冷ややかに怒りを燃やす彼女こと「三島 美津保みしま みずほ」の腕を引き、食事のレーンに戻って行く。

 

「真一・・大丈夫?」


「へ?  ・・何が?」


「何がって、解ってる? 大分印象悪いよ」


「なんの?」


「真一の!」


「・・・・え? マジで?」


 優は思う、ついさっきまで木蓮がどうのこうの言っていたあの口は、どこへ行ったのやら、と。

 だが、この日の衝撃は、その後の真一に大きな影響を与えたのである。


 そして、これが真一の初恋となった。

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