正規航空自衛官

第33話 大島上空 高度2000

[大島上空、高度2000、投下体制に移行します]

[了解、投下実験開始5分前、使用爆薬15番 風力3、速力250、投下要員異常無いか]


[神崎3尉 異常なし、降下準備よろし」

[十文字候補生 異常なし、降下準備よろし]


 

 東京都でもある伊豆大島、ここには防衛庁のミサイル実験施設がある。

 正式に航空自衛隊に入隊した真一と優は、既に飛行開発実験団での巨大化実験を繰り返し、そのデータ取集に協力していた。

 当初は、広大な演習場での実験が推奨されていたが、爆薬の大きさが増すとその姿を外部に見られてしまうことから、現在では伊豆七島へ実験の舞台を移していた。

 今回の実験は、「15番」と呼ばれる爆弾のサイズで、これは150キロ爆薬を指していた。


[目標マーカー確認、投下用意  投下」

[降下地点、目視で確認  降下」


 二人は、航空自衛隊が保有するCH-46大型ヘリコプターから勢いよく飛び出すと、地表に向かいその距離を詰めて行く。


「ヒー! 何度やっても怖いもんは怖いってーーーーー!」


 先ほどまで、しっかりと通信出来ていた真一であるが、実は意外と高い所が苦手なようで・・・・まあ、高所恐怖症で無かったとしても、生身でいきなり高度2000mから落とされれば、怖いに決まっているのだが、特殊なのはその飛行高度だけではなかった。

 真一と優は、普通なら身に着けるべきものを装着していなかった。

 それは、パラシュートである。

 一応「予備傘」よ呼ばれるウエストポーチのようなものは付けているのだが、それは緊急用であって降下用ではない。

 落下傘自体も小さく、仮に開いて着地しても、かなりの衝撃を受ける。慣れていなければ足を骨折するレベルの衝撃が着地時には伝わるため、通常予備傘で降りる前提はない。


 真一と優は、航空自衛隊入隊当初、華々しい入隊式もなく、不定期入隊と形式で臨時に採用された形式をとった。

 優は4月生まれであったため、高校3年になる歳の4月には、幹部である「3等空尉」へと任官した。しかし、誕生日が7月である真一は、未だその立場は「幹部候補生」待遇であり、幹部ではない。

 組織としても、さすがに17歳の少年を幹部に据える訳には行かず、これでも苦肉の策と言えた。

 事情が事情だけに、裾野北高校は中退扱いとされた。

 高校2年の末までは、休学扱いであったが、斎藤1佐を始め航空自衛隊のお偉いさんに、散々人を守ることの大切さや自分たちの能力が平和と正義の為に役立たせることなどを説かれ、高校中退を承諾した形であった。

 もちろん、組織はそんな二人の決心に、好待遇をもって答えた。

 それが幹部候補生と言う立場である。

 さすがに、試験を受けての階級では無いが、自衛隊にはスポーツ競技における優秀な人材を無試験で採用する人事方式があったため、これを踏襲したのである。

 高校2年の秋、あの日二人は斎藤1佐に促され、飛行開発実験団への参加を決意する。

 そして、二人には即日「2等空曹」の階級が付与され、そこに「幹部候補生」と言う修飾語が付された。

 準幹部待遇となった二人は、早速浜松基地内の独身幹部用の小部屋が準備されると、そこで日常を過ごすようになる。

 さすがに、高校2年生の男子が、個室を準備された幹部候補生というのも、実家の両親は飲み込めないだろうと真一は考えていたが、そのリアクションは予想外であった。


 「あんた、凄いじゃないの! 地連(地方連絡部)の人から聞いたわよ! オリンピック候補と同じ待遇で採用されるらしいじゃないの!」


「・・・・うん、ごめんよ母さん、こんな事になっちまって」


「は? 何を言っているの? あんたバカじゃないの? こんな好待遇で雇ってくれるところなんて、今時無いわよ。母さんもね、あんた進路の事、全然考えていないから心配していたのよ! 聞けば今回の採用って、大学生でも相当上のレベルらしいじゃない! まったく良かったねえ、本当にラッキーだわ」


 とんだ肩透かしであった。

 正直、あの巨大化の話も、高校中退の話も、一体どう説明したら良いのか、と思っていたが、蓋を開けば両親は入隊に大喜びと言うあっけない結末を迎えた。

 こうして、真一は思いがけず親の承諾を得て、航空自衛隊の幹部候補生となったのである・・・・17歳で。


 こうして半年の月日が過ぎ、彼ら二人は自衛官としての基礎訓練や講義を受け、パラシュート降下が出来るよう「基本降下過程」を終了させるに至ったのである。


「そろそろ起爆ですね。それにしてもあいつら、よくやりますよ。一体どんなマジックを使って説得したんですか? 斎藤1佐」


「いやあ、彼らは素直だからね、特別な事はしていないよ」


「それでも、怖いでしょうに、落下傘も着けずに降下するなんて」


「・・・・ああ、最初は渋ったね、特に十文字君は」


「渋ったって、それでもやるだけ偉いと思いますよ、あ、起爆したようです」


 上空を飛行する別のヘリコプターから監視していた斎藤1佐と試験第1班長である佐藤2佐は、二人が相当の勇気をもって投下実験に参加している事に敬意を表していた。

 そう、彼らは落下傘降下しているのではない。投下された爆弾にくっ付いているだけの状態である。

 それ故に、パイロットは「投下」と言い、真一たちは自分たちが爆弾ではなく、人間であるという意味を込めて「降下」と表現した。

 それが小さな抵抗であったとしても、今現在彼ら二人が爆弾と共に投下されている事には変わりない。

 大島上空から、起爆する小さな閃光と煙が二つ確認されると、体長35mもの大きさに変化した真一と優の姿が確認された。

 口にはしないが、これほどの恐怖に打ち勝ち、巨大化実験を繰り返す二人に、惜しみない賛辞が送られていた。そして彼ら二人をスタッフはこう呼んだ。


「ヒーロー」と。

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