第16話 格闘戦

 優は巨大化に成功した。

 彼が予想したとおり、爆発の威力が大きければ大きいほど、巨大化の効果は高いようだ。


「優・・・・優!」


 真一は叫んだ、それが自分たちが予想した大きさとは少し異なるからだ。


「やめろ! そんな大きさじゃ、あれに太刀打ちなんて出来ないって!」


 優の体長は、7m級に止まった。

 それは、あの巨獣と戦っても到底勝ち目がない事を如実に示していた。

 例えば人の身長が170cmに2mの熊が抵抗するようなもので、サイズよりもパワーの方に大きな問題があった。

 ましてや、相手は巨大な熊である。その牙も爪も、同サイズの人間を簡単に殺害出来るほどの凶器となる。

 優は、それが解っていながら、さも「大丈夫」とでも言うように、小さく笑顔を真一に向けると、凛々しい表情を巨獣に向けた。

 優は、熊が通過した時に壊して行った道路上の軽トラックを掴むと、それを持って走り出す。


「あいつ、あんなんでどうする気だ?」


 巨獣に接近した優は、両手で持っていた軽トラックを思い切りぶつける。一瞬巨獣の身体が激しい衝突音とともに大きく揺れた。

 真一は一瞬、「やった!」と思ったが、軽トラックの衝突が逆に巨獣を興奮させる結果となった。


≪御殿場市境界を越えた熊と併せて、新たな個体を発見、発砲の許可を求めています≫


 広域ラジオから入る警察の音声は、明らかに巨獣への射撃を企図する内容である。

 どうやら、巨大化した優の事を、新たな巨獣の出現と勘違いしているようだった。

 

「優! 射撃があるみたいだから下がれ!!」


 真一は叫ぶが、優の耳には入っていないようだった。

 体長7mになったとはいえ、さすがに実弾で撃たれればただでは済まない。

 警察は、明らかにライフルによる射撃を検討していると思われる。

 そのときだった、巨獣が猛スピードで優に向かって突進してくる。

 一瞬、優の前で立ち止まったかと思えたが、上体を起こした巨獣は、そのまま鋭い爪で優の頭めがけて腕を振りきった。

 普通の人間であれば、この一撃で頭部を吹き飛ばされて終わりだっただろう。ところがこのとき、優はそれを交わし巨獣に対して拳を放ったのである。


「って、おい、熊相手に殴るって・・・・あいつ、バカなのか?」


 強烈なパンチであったが、それは巨獣を少しだけ後退させただけで、大きな致命傷を与える事が出来ていない。そして、優は相手の頭に蹴りを入れた。


「・・・・あいつ、格闘技なんてできるのか?」

 

 先ほどのバイクと言い、広域バンドラジオと言い、親友には自分が知らない一面が以外と多いことに驚いた。

 優が果敢に立ち向かう姿とは裏腹に、巨獣の方はあまり効いていない様子である。その時だった、激しい射撃音とともに御殿場市方面からライフルの射撃音が激しく響きわたる。警察の射撃が開始されたのである。


≪依然、熊は健在の模様、射撃の効果は認められず≫


 ラジオから聞こえてくる音声は、悲痛な叫びであった。

 警察が持つ最大の武器であるライフルに効果が無いと言う絶望的状況、そして、その絶望的状況は優の身体にも起こっていた。警察の射撃により、優の肩口からも血が出ていたのである。

 

≪もう一体の個体からは出血を確認、効果ありと思われます≫


 そんな無線の音声を聞きながら、真一は親友の為に出来ることを模索する。しかし、初めてのこの状況、何も浮かんではこなかった。

 彼が頭を真っ白くしている最中、巨獣とは別方向から地響きが聞こえてくる。

 その音の主は、自分たちが先ほど来た裾野市方面から地面を揺らしながら迫っていたのである。

 真一は、それを見て硬直する以外、何もできなかった。

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