第32話 お義母さん

「どうして、あんたはそれに気づいたの?」


「冷静に考えれば解るじゃないか、だって、色々おかしかったからさ」


「・・・・」


「最初におかしいって思ったのは、俺の顔だよ。元々日本人顔だと思っていたのに、今の俺はどうして白人のハーフみたいな顔しているんだ? おかしいよな、母さんが北欧の顔だって気付いて、俺と血のつながりが無いんじゃないかって思った途端、俺の顔がハーフみたいにって」


「・・・・」


「俺、母さんの子じゃないんじゃないか? ハーフっぽくなっても、それでもやっぱり似てはいないよな、俺たち」


「どうしてそんな悲しい事を言うの? マサル、あんたは私の子だよ、可愛い私の一人息子じゃないか!」


「・・・・母さん?」


 泣いてる? あれ? ちょっと酷いこと言っちゃったかな?

 でも、こんな母さん初めてだ。

 胸が苦しい、なんだろう、この気持ち。

 母親を泣かせてしまった、罪悪感なのか?

 それで、俺もまた涙を流す。

 まったく、親子揃って同じ学校の制服着てさ、何やってんの?

 本当に、母さんってば・・・・

 俺たちは、強く抱き合った。

 母さん、母さん、母さん、母さん!

 不思議だ。

 こんな感情、俺は知らないぞ。

 まるで、親子の再会みたいに、胸が苦しくて、悲しいのと嬉しいのが混ざっておかしくなりそうだ。

 

「母さん、ゴメン・・」


「いいのよ。バカね、こんなに泣いて」


「俺、何で泣いてる?」


「それ、母さんに聞く?」


「そうりゃそうだ」


「母さんね、もうちょっとあんたの母さんでいたいの。だから、愛良ちゃんの事は、もう少しゆっくり進めてほしいわ」


「どう言う意味?」


「・・・・あの子、さっき私の事「お義母かあさん」って呼んだのよ。気付いた?」


「気付くかって! 言葉に出せば同じ「オカアサン」じゃないか! 逆になんで漢字が変わったことに気付いたの?」


「そりゃ、女同士だからさ、お互いね・・・・ねえマサル、もうこれ以上、変な詮索をしないで。お願いだから」


「・・・・うん」


 本音は、この胸のもやもやを解消したい。

 でも、母さんの涙を見た後に、俺は「うん」以外の言葉を持ち合わせていなかった。

 不思議と、心の底から親孝行がしたいと思えた。

 だから、一旦はこの疑問を胸に仕舞い込んだ。


 ・・・・仕舞い込んだつもりだった。


 でも、俺は急激に怖くなった。

 この不安は一体なんだと言うのか。

 変な汗が出始めて、血の気が一気に引くのが解る。

 そりゃそうだ。

 何しろ、母さんは今年の夏を飛ばしたことを認めたんだから。

 夏を飛ばす?

 涙に暮れて、俺は一瞬その異常事態を飲み込んでしまったが、考えてみれば相当にヤバイ話だ。

 どうして俺は飲み込めた? さっきはどうしてそう思えた?

 普通に考えれば解るじゃないか、委員長が俺を勉強に誘ってくれたのは、夏服に衣替えしたばかりの時期、そして今はもう秋。


 だから、この疑問符は、この疑問符だけは手を付けなきゃダメなんだって思ったんだ。

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