第20話 多様性ってやつ

「あら、愛良ちゃん、今日も朝からかわいいわね」


「・・・・そんな事言ってもダメですよ! 校則でスカート丈は膝上までって決まりなんですから」


 そうなんだよな、うちの学校って私立だからスカート丈が最初から短めになっているんだよ・・・・そんなスカート丈で指導受けるって、どんだけ短くしてるんだよ母さん。


「そうだよ母さん、大人なんだから生徒に手本を示さなきゃだろ」


 ああ、なんだかんだ言って、俺は母さんが生徒として学校に登校している現状を受け入れちゃってるよ。

 スカート丈の話の前に、まずはこれ、許されるのか?

 入学手続きとか・・・・無理だよな、そもそも。

 ほとんどこれってエキシビジョン・マッチみたいなもんだよな。


「星野君、僕は良いと思うな、スカート丈が短い事は。ほら、多様性ってやつだよ」

「そうだぞ星野君、多様性だよ」

「僕も、良い事だと思うな、君は考え方が古いんだ」

「その通り、前時代的な考えは捨てたまえよ、君」


 なんだよ! なんで急にクラスメイトの口調が1960年代の学生っぽくなっている?

 さっきまで「マジ、っぱねえ」とか言ってた奴らがどうしたんだ?

 あー、母さんのスカート丈に対して「異議なし」とか言い出したぞ・・。

 団塊の世代かって!

 

「あんたも古い言葉知ってるのね・・・・「団塊の世代」って(笑)!」


 だから、心読むなよ心・・。

 女神を前に団結するクラスの男子を横目に、唯一慰めてくれるのは委員長だけだ。

 もう、マジ好き!

 



「はい、今日からこのクラスに転入してきた星野女神さんです! みんな、仲良くしてあげてね」


 ってか、名前! 女神ってもうまんまじゃん!

 雑なんだよ設定が!

 担任の先生が紹介すると、キラキラした母さんは、もう本当に神々しかった。

 男子は全員「はい」ではなく「異議なし」を叫ぶ・・どうした皆?

 ってか、下の名前、本当に女神なのか? てっきり俗称みたいなものかと思っていたよ。

 17歳にして、初めて親の本名を知るって・・・・。


「それじゃあ、星野君の隣の席が空いているので、女神さんの席はあそこね。星野君は、色々学校の事を教えてあげてね」


 ・・・・刺さる、刺さるよ男子の視線!

 昨日まで隣に居た奴、どこへ消えた?

 いや、これってもう授業参観に親が隣に座ったのと同じなんだが!

 無いだろ! 母親にトキメイちゃう奴、いないだろ!

 大体、どうしてみんなこの異常事態を簡単に受け入れてしまうんだ。誰か反応しないのか?


「先生、あの・・・・星野女神さんは、俺の母親なんですけど、学校として、それでいいんですか?」


「星野君、君はどうしてそう言う事を言うの? それって差別だと先生は思うの」


「そうだそうだ! 星野君の考えは旧態依然としていて、良くないと僕は思う!」

「その通りだ! 本事案について、人民裁判の開催を要求します!」

「異議なし!」

「異議なし!」

「異議なし!」

「異議なし!」

「異議なし!」


「ちょっと待て! お前ら一体どうした? 何があった! 母さんが女神様だからって、なにカッコつけてるんだよ! ってか、カッコつけ方が古いんだよ! それが前時代的だっつーの! 先生はダメでしょ、この状況を受け入れちゃ!」


「星野君、多様性って言葉、知ってる?」


 はい知ってます。それさっき聞いたやつなので! 

 どうした先生? 多様性に毒されたか? 知ってるも何も、今日はその言葉がトラウマ級に衝撃だよ!

 多様性という言葉だけで、なんだかこの状況、正当化されてしまうぞ。


「じゃあ、この学校って、何歳まで入学出来るんですか? おかしいでしょ、俺の母親ですよ? コスプレでもキツいっての!」


「あー、星野君って、そう言う事言う人なのね」

「お母様が、お可哀想よ」

「ほら、ご覧なさい、お母様の悲しそうな横顔を」

「星野君、多様性は愛なのよ」


 今度は女子が結託し始めた!

 この女子もまた60年代テイスト醸し出しているな、ってか「多様性」、もうマジ勘弁して!

 こうして俺は、緊急のホームルームに被告として出廷され、延々と人民裁判を受ける羽目になったのだった。



「星野君、今日は災難だったね・・」


「もう、マジ、多様性嫌い・・・・。 委員長も、裁判の司会、ありがとう・・・・」


 結局、委員長はこの人民裁判を仕切ることになり、ものすごくやりにくそうな感じで裁判を進めた。

 結局、学校側としては何歳であっても就学意欲がある人は平等に扱うとし、母さんの入学は正式なものであると告げられた。

 そして、「じゃあ、星野女神さんは、何歳なんですか?」という微妙な質問に、母さんは「17歳です」と悪びれるでもなく答えた。


 え? 井上喜久子? 永遠の17歳?


 ・・・・知らなかった、母親が同い年だったなんて。


 まあ、17歳と言われても、なんら疑問の余地が無いほど、母さんは若くて綺麗だ。

 それでも、自分の母親が世界屈指の美女であっても、息子には何らメリットは無い。

 これこそ、美人の無駄遣いだよな。


 ってか、ちょっと発言したくらいで人民裁判で吊るされるのに、母さんは17歳って言っても、だれも怒らないのがムカつくわ。

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