第9話 キラキラと光って

 文化祭が近付き、肌寒くなってきた初秋の頃、俺と母さんは高校の体育館に向かっていた。

 俺の後ろを付いてくる母さんの、なんとまあ目立つこと。男子生徒のみならず、女子生徒まで振り向いてくる。

 母さんも母さんで、いちいち笑顔を振りまくものだから、キラキラとして見えてしまう。

 ・・・・本当にキラキラと光ってないか? いつもより40W電球くらい明るく見えるんだが。


「あ、星野君とお母さん! こっちです!」


 今日は演劇部の活動が体育館のステージと言うこともあって、バレー部とバスケ部が部活をしている中での稽古となった。

 ステージには、既に部員が集まっているとのことだったが・・・・


「委員長、演劇部って、メンバー・・・・」


「ごめんね、うち、これだけしかいなくて・・」


 これだけって、生徒二人しかいないじゃん! そっちにいるのは国語の斉藤先生だし。

 ・・・・あ、それで演目が「金の斧」なんだな、あれなら二人でも出来るし・・。


「星野君のお母さんですね、本日はお忙しい中、演劇部のためにありがとうございます、私、演劇部顧問をしております斎藤京子と申します。本当に噂通りのお綺麗なお母さまですね、星野君、あなたは本当に幸運だと思うわよ」


 先生もなんだか嬉しそうだ。 

 当然知っているわけだよな、母さんが女神って事実を!

 国語教師だから、童話の世界とか、きっと好きなんだろうな。


「では、早速ですが、演技指導をお願いしたのですが」


「解りました、それで、女神役はどなたが?」


 すると、委員長が恥ずかしそうに手を小さく挙げた。

 そうかー、委員長が女神様かー、似合うんだろうな、きっと。


「お恥ずかしいですが、一生懸命頑張りますので」


「あら、愛良ちゃんが女神役? まあ、それじゃあおばさん、頑張らなきゃだね!」


 委員長も嬉しそうに笑っているけど、なんとも恥ずかしそうにしている。

 そして、女神衣装の中で、羽を持って「これって、どのようにいつもされていますか?」と聞いて来た。 

 いやいや、いつもは羽なんてこんなに大きくないよな。


「あの委員長、ゴメン、母さん羽って小さいん・・・・」


 俺がそう言い終わる前に、母さんは「バサッ」と大きな羽搏く音とともに背中から羽を大きく広げ、昨日よりも強烈な後光が射した。

 羽は片方で5mはあるだろうか、両翼で10mを超えている。

 ・・・・なにこれ?

 これじゃあ女神様じゃん! 見紛うことなく女神じゃん!

 浮いてる浮いてる! 宙に浮いてる! ちょっと母さん、やり過ぎ! それ!

 体育館を、謎の光が支配すると、それまで大きな声で部活をしていたバレー部とバスケ部が動きを止めた。

 顧問の斉藤先生は、涙を流して両手を合わせている。

 母さんの後ろには、天井から更に光が射しこむと、金色の粉がゆっくりと舞い降りて来て、両サイドにはラッパを持った幼児がいる・・・・あ、これって天使ってやつか?

 あーあ、委員長がなんか平伏しちゃったよ。イスラムのモスクとかで見る光景だな、なんか礼拝みたいに。

 委員長を見た他の生徒も、それに呼応するように平伏し崇める。


 え? ・・・・なにこれ、どういう状況?


 そして母さんは、俺たちが生涯忘れられないような一言をここで言うのであった。


「あなたが落としたのは、金の斧、それとも銀の斧?」と。

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