ブラックファントム
鷹山トシキ
第1話 公安
漆黒の闇夜に、雨が音もなく降り注ぐ。東京の街は、ネオンの光をぼんやりと反射させていた。高層ビルの最上階にある密やかなオフィスで、壁一面に広がるモニターを凝視する男がいた。その名は、神崎
彼は日本の治安を守る公安警察のエースだ。
今夜、神崎が追っているのは、国際的なテロ組織の幹部「コードネーム:ファントム」。奴が日本に潜入しているという極秘情報が、数日前に公安のトップに届けられたのだ。
「神崎さん、ファントムの動きを捕捉しました。新宿の雑居ビルに入っていきます」
部下の声に、神崎は微動だにしない。ただ、冷たい視線をモニターに固定したまま、指示を出す。
「各班に伝えろ。突入はせず、周囲を固めろ。ファントムは罠を仕掛けている可能性がある」
神崎の予感は的中した。
数分後、雑居ビルの一室から、激しい銃撃音が響き渡る。モニターの映像は、一瞬にしてノイズに覆われた。
「やられました!ファントムは我々を誘い出し、別の場所に逃げたようです」
部下の焦った声が、静かな部屋に響き渡る。だが、神崎は冷静だった。
「わかっていたことだ。これは奴の仕掛けた陽動にすぎない。本命は別にある」
神崎は椅子から立ち上がると、窓の外に広がる東京の夜景を見つめた。
「本命は、明日、首相官邸で行われる国際会議だ。ファントムの狙いは、会議に出席する各国の要人たち。奴はテロを起こし、日本を混乱に陥れようとしている」
神崎は、公安のトップにこの情報を伝え、会議の中止を進言した。だが、トップは神崎の言葉を信じようとしない。
「証拠がない限り、会議を中止することはできない。お前は、この国を混乱させたいのか?」
神崎は、孤独な闘いを強いられる。
翌日、神崎は一人、首相官邸に向かう。彼の胸には、ファントムの狙いを証明する最後の切り札があった。
しかし、官邸の警備は厳重で、神崎は中に入ることができない。その時、彼の耳に、かすかなノイズが聞こえた。
「これは…!盗聴器か…!」
神崎は、警備員の目を盗んで、ノイズの発生源を探し始める。そして、植え込みの中に隠された小さな盗聴器を発見する。
「まさか…!ファントムは、この盗聴器を使って、会議の情報を盗み聞きしようとしていたのか…!」
神崎は、盗聴器を手に、官邸の警備員に駆け寄る。
「ファントムは、この盗聴器を使って、テロを仕掛けるつもりです!今すぐ、会議を中止してください!」
神崎の必死の訴えに、警備員は顔を曇らせる。
「ですが、証拠は…」
その時、神崎のポケットの携帯電話が鳴り響く。電話の相手は、公安のトップだった。
「神崎!お前の言った通りだ!ファントムは、会議の会場に爆弾を仕掛けていた!お前の報告書が、爆弾を発見する手掛かりになった!」
神崎は、安堵の表情を浮かべる。
「すぐに会議を中止してください!まだ間に合います!」
神崎の言葉に、警備員は頷き、無線で指示を出す。
そして、会議は中止され、テロは未然に防がれた。後日、神崎は、公安のトップから、感謝の言葉をかけられる。
「お前のおかげで、多くの命が救われた。ありがとう、神崎」
しかし、神崎は、静かに首を振る。
「ファントムを捕らえなければ、本当の平和は訪れません」
神崎の闘いは、まだ終わらない。夜の闇に紛れて、彼は再び、街へと繰り出す。
彼の視線の先には、ファントムの影が、かすかに揺れていた。
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