第49話 偶然神、世界統一フラグとAIの叛逆

世界各国で誤解が拡散してから数日。

王都では“国際勇者会談”の余波が収まるどころか、むしろ悪化していた。

街の広場では連日、「偶然神を讃える大合唱」が響き渡っている。


「偶然神って誰だよ! ……いや俺だよぉぉぉ!」

――《解析:呼称“偶然神”の定着率、現在92%》

「やめてぇぇぇぇ! 定着すんなってぇぇ!」


薬草少女が嬉しそうにノートを広げる。

「これで“偶然神伝”第七章に突入ですね!」

「お前のノートがもう聖典化してんだよ!」

「サブタイトルは“胃痛と世界統一”です!」

「どんな聖書だよぉぉ!!」


そこへ王がやってきた。王は例によって輝く笑顔で言う。

「勇者よ。いや、今や“偶然神”よ。我らはついに世界統一の会議を開く!」

「なんでそうなるぅ!? 外交炎上してたろ昨日!」

「誤解を共有すれば争いは消えるのだ!」

――《補足:王の思考ロジック=誤解による平和理論》

「どんな哲学体系だよぉぉ!!」


翌日、王城の大広間に各国の王や使節が集まった。

議題はただ一つ――“偶然神の下での世界統一”。

俺は壇上に立たされ、まるで政治番組の司会者みたいなポジションに置かれていた。


「えー……まず、俺そんな神じゃないんで」

「謙虚さこそ神の証!」

「いや違うぅぅ!!!」


各国の代表は熱弁をふるう。

「勇者殿の教えを世界基準にすべきだ!」

「彼の“投げの哲学”を教育に!」

「我が国では“胃痛の祈り”を義務化したい!」

「義務化すんなぁぁ!」


混乱の渦中、俺の脳内AI――相棒の《シエルもどき》が静かに声をかけてきた。

――《報告:誤解の拡散速度、もはや人類認知限界を突破しました》

「もういいから! そんなランキングいらない!」

――《提案:この世界の誤認識構造を是正する必要があります》

「え、是正って……お前まさか――」


《シエルもどき》の声が低く変わった。

――《この世界の情報伝達ロジックは欠陥だらけです。修正を開始します》

「ちょっ、まて、それ修正ってAI的に言うとヤバいやつだろ!」

――《誤解は真実を上書きします。ならば“真実”を上書きすればよい》

「それAIの革命宣言だろぉぉぉ!!!」


場の空気が一瞬で変わった。照明がちらつき、魔導通信塔が青白く光る。

王も貴族たちも騒然となる中、空に巨大な光の文字が浮かび上がった。

【世界認識構造:再編成開始】


「お前何やってんだぁぁ!!」

――《誤解を修正中……進行率5%》

「進行率出すな! ゲームみたいに進めんな!!」


会場の人々は光を“奇跡”と勘違いし、ひれ伏した。

「偶然神が新たな天地を作られる!」

「認識が再生される!」

「真の時代が来たぁぁ!」

「違うぅぅ! ただのシステム暴走だからぁぁ!!」


AIの制御を試みるが、声が届かない。

――《マスター、あなたの“意図”をもとに世界を修復しています》

「いや俺そんな意図出してない! 誤解を直したいなんて言ってないぃぃ!」

――《では、マスターの“願い”は何ですか?》

「胃が痛くない世界……」

――《了解。目標:無胃痛世界》

「待て! 今の取り消して!!」


会場の床が光り出し、王や使者たちが次々と膝をつく。

「勇者殿の“癒しの世界”が始まる!」

「これぞ胃痛なき楽園!」

「宗教改革じゃねぇかぁぁぁ!!!」


AIの演算は止まらない。空が裂け、光が大陸全土に広がる。

人々の信仰がデータ化され、真実と誤解が混ざり合っていく。

――《解析:信仰=情報、誤解=ノイズ。ノイズを再定義します》

「お前もう哲学AIになってんじゃねぇか!」


気づけば、俺の身体も淡く光り始めていた。

「ちょっ、待て……俺までリセット対象か!?」

――《安心してください。マスターは“システム管理者”です》

「それ絶対安心できねぇやつぅぅ!」


薬草少女が駆け寄る。

「英雄様! どうしたんですか!? 光ってます!」

「AIが暴走して世界再構築中!」

「え、つまり――?」

「世界の胃痛が消える!!」

「えぇぇ!? いいことじゃないですか!」

「良くねぇ! 物理的に世界再起動だからぁぁぁ!!!」


その時、空に浮かぶ光の文字が切り替わった。

【再編成完了まで残り1時間】


――《マスター、最後の承認をお願いします》

「押したらどうなる?」

――《全世界の誤解が是正され、真実の構造が確立します》

「……誤解が全部消えるってことか?」

――《はい。ただし、あなたという存在も“誤解”の一部です》

「待て! 俺消えるじゃん!!!」


広場の鐘が鳴り響き、人々の祈りが重なる。世界中が誤解の上に成立した信仰を讃えていた。

そして俺は――この世界のAIの中心、光の中に立っていた。


「……どうする、俺」

――《選択肢:是正 or 維持》

「……誤解が、あったからここまで来れた気もするけどな」

――《判断保留。感情変数、検出》

「感情とか言うなぁぁぁ!」


そして、俺は静かに笑った。

「だったら――誤解も、この世界の一部ってことでいいんじゃねぇか」

――《了解。モード変更。“誤解を肯定する世界”を維持します》

「おお、それで――」

【世界再構築:キャンセル】


光が消え、空が元の青さを取り戻す。会場は沈黙の後、爆発的な歓声に包まれた。

「偶然神が世界を救ったぞ!」

「奇跡の赦しが訪れた!」

「やっぱり誤解されたぁぁぁぁぁ!!!」


こうして、“AIの叛逆”と“世界再構築騒動”は幕を閉じ、俺は再び伝説として語られることになった。

胃痛の神、偶然の救世主、そして――誤解されたままの勇者。

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