Chapter10 「虎ノ門要人警護戦 2/2」
Chapter10 「虎ノ門要人警護戦 2/2」
《こちら神崎、状況を報告しろ》
《川島です、闇桜が榊翁を襲撃! 激しい銃撃戦です。米子ちゃんが榊翁をベントレーに運びました》
《沢村米子がいるのか?》
《はい、闇桜と撃ち合ってます》
《川島君、援護しろ! あの娘を守るんだ!》
《了解です》
《こちら藤谷。闇桜は私も含めて12名。当初の計画通りの配置です。現在5名が銃撃により死傷、引き続き状況を監視します。沢村米子がピンチになったら闇桜のヤツらを後ろから撃ちます》
神崎達の『闇夜のカラス』も川島と藤谷が現場に来ていた。藤谷は闇桜の状況を逐次無線機で神崎に知らせていた。川島は米子の支援役だった。川島はこの日に備えて3日間、『新木場の警察施設の射撃場』で訓練を行った。
米子は闇桜の男2人が隠れるクラウンの後方に回り込んだ。闇桜の男2人はミントと生き残った榊の親衛隊と撃ち合っているので米子には気付いていない。米子が右手でグリップを握ったVZ85スコーピンを構える。
『バババババババババババババババババババババ』
米子がフルオートで発砲した。スコーピオンの短い銃身と本体が跳ね上がるが左手で上から押さえて上手くコントロールする。クラウンの陰にいた男2人が体から血煙を噴いて崩れ落ちた。ほぼ全弾が命中していた。
『パン』 『パン』 『パン』
米子の背後で銃声がした。米子が振り向いてスコーピオンを向けた。青い作業着を着た男が背中を向けて発砲していた。奥で黒いスーツを着た男が被弾して倒れた。青い作業着を着た男が米子の方に振り返った。見た事のある顔だった。
「米子ちゃん、俺だ、川島だ」
「川島さん! どうしてここにいるんですか?」
米子が驚いて言った。
「助太刀だよ」
川島が照れくさそうに言った。
「ありがとうございます」
米子は頭を下げた。
《マーズよりビーナス、敵を3人排除》
米子がインカムで報告した。
《ビーナス了解、残りは11時方向の柱に2人、あとの2人は不明》
《こちらジュピター、柱の2人は狙撃で排除しました》
樹里亜の声がインカムに流れた。
《こちらビーナス、ジュピターありがとう。遅かったね?》
《こちらジュピター、すみません、隣のビルで爆破テロがあったみたいで病院の周りが警官だらけで駐車場の入り口から入れませでした。病院の正面玄関の横の階段から入りました。マーキュリーもいます》
『バン』 『バン』 『バン』 『バン』
『パン』 『パン』
駐車場の入り口方向で銃声がした。米子は45口径と9mmの2種類の銃声だと判断した。
《こちらマーキュリー、入り口を塞いでるバンの横に敵2人、1人を排除、もう1人は見
失いました。探して排除します》
瑠美緯がインカムで報告した。
《マーズよりマーキュリー、無理しないで。私もそっちに行くから》
米子は駐車場の入り口向かって走った。入り口を塞いでいるバンが見えた。バンの前に黒いスーツ姿の男が倒れていた。ライトグレーの制服姿の瑠美緯が床に右膝を着けてシルバーのV10ウルトラコンパクトを持った腕を左右に動かして周りを警戒している。
「瑠美緯ちゃん、大丈夫?」
米子が近づきながら声を掛けた。
「大丈夫っす! あと1人を見失いました」
青い作業着を着た川島が走って来た。
「米子ちゃん、残った敵は味方だ。藤谷さんだ。覚えているだろ?」
川島が言った。
「東北で一緒だった藤谷さんですか?」
「そうだ。闇桜に潜入して情報を流してくれているんだ。今回の襲撃に参加した闇桜の11人は全滅だ。警護は成功だよ」
川島が説明した。
《マーズより各位、敵を殲滅。各自撤収せよ》
米子がインカムで発信した。
瑠美緯が米子と川島のやりとりを不思議そうに見ている。
「瑠美緯ちゃん、こちらは川島さん。公安の刑事だよ」
米子が川島を紹介した。
「米子先輩の後輩の水谷瑠美緯です。よろしくお願いします」
瑠美緯がペコリと頭を下げた。
「こんな格好ですまないが公安の川島だ。作業員に変装してるんだ。君も内情のJKアサシンか? しかし若いな。幾つだ?」
「16歳です」
瑠美緯が答えた。
「神崎さんも来てるんですか?」
米子が訊いた。
「神崎さんは警護チームの指揮官として来ているが、警護を解除したんだ。阿南は警護を解除させるために隣のビルで爆破テロを起こした。神崎さんは私と藤谷さんと連絡を取っている。米子ちゃんを支援するためだ」
川島が説明した。
「心強いです」
米子が言った。
「じゃあ俺は撤収するよ」
川島が走り出すと駐車場の入り口からスロープ登って去っていった。入れ替わるように樹
里亜が姿を現した。冬用のセーラー服姿でライフルケースを背中に掛けている。
「沢村さん、私と瑠美緯ちゃんは撤収します。昨日ミントさんから事情を聞いて私達も駆
けつけました。ミッションが成功して良かったです」
樹里亜が言った。
「樹里亜ちゃん、瑠美緯ちゃん本当にありがとう。助かったよ」
米子が礼を言った。
「これで米子先輩の危険が少しでも減るならお安い御用っすよ。今回は樹里亜先輩を乗せ
てバイクで来たんですけど、病院の周りは警官だらけですし、入り口は車で塞がれてるし、
遅くなってすみませんでした」
「バイクで来たんだ」
「はい。稟議が通って木崎さんがKLX230を買ってくれたんです。米子先輩、バイク
の訓練をして下さい」
「いいよ。今度群馬の訓練所に一緒にバイクで行って訓練しようか。終わった後は温泉に
でも入ろうよ」
「メチャ嬉しいっす! お願いします」
瑠美緯が満面の笑みを浮かべて言った。
「じゃあ私達は撤収します」
樹里亜が言った。
「米子先輩、早く戻って来てくださいね!」
樹里亜と瑠美緯が駆け足で去っていった。
米子はミントの軽ワゴン車まで移動した。ミントは弾痕だらけのレイクブルーの軽ワゴン車の横に立っていた。ミントもブレザーの制服姿だった。
「お疲れちゃん、なんとか警護対象を守ったね」
ミントが言った
「まさか車で援護してくれるとは思ってなかったよ。車が突っ込んで来た時はびっくりしたよ。でも大丈夫? だいぶ撃たれてたよね?」
米子が言った。
「この軽ワゴン、技術部が開発した防弾車だよ。ベースはダイハツの『タフト』だけど、窓はポリカーネイト素材だし、タイヤの防弾仕様だし、ボディーとドアの内部にアラミド繊維やセラミックのパネルが詰めてあるから拳銃弾は余裕で防げるよ。ライフル弾もギリ大丈夫だって言ってたよ。4WDでエンジンも載せ替えてパワーアップしてるんだよ。後部ドアをスライドドアに改良してるし小回りが利くからこういう場所では使いやすいよ」
ミントが嬉しそうに言った。
「凄いね。市街戦で使えそうだね。技術部もやるね」
米子が感心するように言った。
「それより米子のヘルメット、弾痕があるけど大丈夫? 弾が喰い込んでるよ」
「大丈夫だよ。凄く痛かったけどね。ライフル弾だったらヤバかったね」
「やっぱり米子は不死身だね」
ミントが言った。
「あの、ありがとうございました。榊先生に替わってお礼を言わせていただきます」
九鬼が米子達の横に歩いて来て言った。
「榊さんは大丈夫ですか?」
米子が訊いた。
「親衛隊の仲間が3人殺られましたが、榊先生は無事です。内閣情報統括室には正式にお礼を言わせていただきます。公安と警備部が警護しているのは知っていましたが、まさか内閣情報統括室が警護しているとは思いませんでした。申し遅れましたが私は榊先生の秘書の九鬼輝樹と申します」
九鬼が軽く頭を下げた。
「今回は内閣情報統括の指示ではなく、私個人の判断で実行しました」
米子が言った。
「あなた個人の判断ですか?」
「詳しい事は言えませんが、襲撃の情報を掴みました。私にとって意味のある行動なんです。他の仲間も同じ組織の所属ですが、今回は私の作戦を個人的に支援してくれたんです」
「そうでしたか。皆さんはJKアサシンですよね?」
九鬼が言った。
「知ってるんですか?」
米子が驚いて言った。自分達の存在は国家機密のはずだった。
「我々も情報網を持ってます。それより榊先生がお2人にお礼がしたいそうです。何かご要望はありますか?」
「私が勝手に自分のためにやったことですからお礼は結構です」
「それでは榊先生が納得しません。私が怒鳴られてしまいます。お礼をさせて下さい。お願いします」
九鬼が頭を下げた。
「じゃあ美味しいものをご馳走してよ。榊さんってお金持ちなんでしょ?」
ミントが話に割り込んで言った。
「美味しいものですか? 何がよろしいでしょうか?」
「米子、何が食べたい? 米子のミッションなんだから米子が決めなよ。九鬼さんも困ってるじゃん」
「そうだなぁ。『ふぐ』とか食べてみたいかも。食べた事ないんだよね。高級な和食とかいいなあ」
「いいじゃん。料亭とか行ってみたいよね?」
「うん、行ってみたよ。どんなところか興味があるよ」
「ふぐに料亭ですね。榊先生にお伝えします。連絡先を教えていただけますか?」
九鬼が言った。
「LINEならいいよ」
ミントが言った。九鬼はスマートフォンを取り出してミントと米子のLINEアドレスを登録した。
「九鬼さん、私達の事は見なかった事にして下さい。襲撃犯は九鬼さん達が撃退した事にして下さい。そうしていただけるなら榊さんのお礼をお受けます」
米子が低いトーン言った。
「わかりました。あなた達はこの場にいなかった。そういう事にします」
九鬼が言った。
「ありがとうございます。ふぐ、楽しみにしてます」
米子が笑顔で言った。九鬼はその笑顔に魅了された。不思議な笑顔だった。凄まじい悲しみの裏側に存在する笑顔だと思った。カードの表と裏のように。
【警視庁本部庁舎公安部部長室】
榊襲撃の翌日の早朝、神崎は阿南に呼び出しを受けた。神崎は自分達『闇夜のカラス』の行動がバレたのではないかと思って気が気ではなかった。
「残念だが榊暗殺は失敗に終わった。闇桜の襲撃チームは榊の親衛隊にやられたようだ。しかし納得がいかん。闇桜は精鋭揃いだ。私設の戦闘部隊に負けるはずがない。警備部の警護チームの中に制服を着た若い女を見た者がいる。沢村米子じゃないのか? 君のチームは見なったか?」
「私は計画通りに公安1課の警護チームを率いて爆破テロの現場に応援として行きましたので襲撃現場は見ていませんでした」
神崎が言った。自分達の行動はバレてないようだが、米子の名前が出た時にはかなり焦った。
「11人だぞ。11人もいたのに全滅した・・・・・・」
阿南が不安そうに言った。
「沢村米子の行方は相変わらず不明のようです。闇桜と裏社会に狙われているので、逃げているのだと思います。自らノコノコ出て来るとは思えません。それに榊の暗殺を阻止する理由もありません」
神崎が言った。
「沢村米子は普通に生活して学校に通っているようだ。先日、笹塚で沢村米子を襲う予定だった闇桜のメンバー2人と下請けに使った殺し屋の1人が行方不明になっている。沢村米子の自宅の近くだ。神崎君、早急に沢村米子を排除するんだ!」
「私は沢村米子の件からは外されました。それより榊翁の報復を気にした方がよろしいのではないでしょうか? 榊翁の人脈と情報網は公安以上と言われています」
「そんな事はわかっている! だが、我々が襲撃した証拠が無い以上榊も動けないだろう。闇桜の死体は回収した」
阿南の声に僅かに焦りがあった。神崎はそれを見逃さなかった。
「死んだ闇桜の人間の扱いはどうするのですか? 彼らも警察官です。隠しきれません」
「死体は公安2課が管理している。完全に消す予定だ」
「11人ですよ? 東北で死んだ夜桜の19人の件はなんとかなりましたが、続けざまに11人が事故で死ぬのは不自然です。さすがに部長の力でも難しいのではないでしょうか?」
「夜桜も闇桜も組織図に無い部隊だ。メンバーになった時点で警視庁の警察官名簿からは消されるから問題ない。部隊の存在を知っている上層部への報告は必要だが手を打ってある。極秘の合同訓練中に11人が乗った移動用の護送車が山道から谷底に転落した事にするつもりだ。すでに長野県警と連携して事故の書類の作成を進めている。かなり金を包んだがな。まあ、書類だけ揃えれば上層部は文句を言わない。組織とはそういうものだ」
「さすが用意周到ですね。しかし残った闇桜のメンバーはどう思うでしょうか。捨て駒のように扱われる事への不満を感じるのではないでしょうか? まあ壊滅状態に近いのでしょうが」
神崎は少しでも阿南を脅したいと考えた。それは阿南に激しい嫌悪感を抱いたからだ。自分の作った組織のメンバーを物としか考えていない事に怒りを感じたのだ。また、闇桜に何人のメンバーが残っているかも知りたかった。
「そんなもの報酬を増やせばいいだけだ。給料を倍にしてやれば文句は言わなだろう。まだ20人近くのメンバーが残っているが、赤い狐がこの国を支配するまでの間だけ必要な組織だ。公安の機密費で何とかなるはずだ」
「もし榊翁にリークする人間がいたらどうしますか?」
神崎はさらに脅しをかけた。
「バカな事を言うな。私を脅しているのか? 君も一心同体だぞ。情報を漏らせば排除される事を闇桜のメンバーは知っている。私は裏切り者は許さない」
「はい、そのような事が無いよう私も目を光らせたいと思います。阿南部長あってこその公安です。私はそこの一課長にしか過ぎませんが部長の右腕として働く事ができれば幸いです」
「まあ、注意するに越した事はないな。神崎君、頼んだぞ。君が頼りだ。君を次期部長に推薦してもいい。それと沢村米子を早く始末するんだ。どうも気になる。先日、内情の東山管理官から電話があった。いろいろ訊かれたよ。うちの工作員に手を出すなとも言っていた。もしかしたら我々の動きに気付いたのかもしれん。ゼニゲーバの件だ。だから早く沢村米子を始末するんだ。生かしておくと面倒な事なりかねん」
阿南が不安そうに言った。
「たかが女子高生です。気にする必要はありません」
神崎が白々しく言った。
「沢村米子はただの女子高生ではない! 刺客を3人殺られた。榊の襲撃現場にも居たかもしれんのだ。お前がやらないのなら私が闇桜を使って消すまでだ」
「そんな事をしても闇桜の死体が増えるだけです。まあ、死体も残らず行方不明ですかね」
神崎は皮肉を込めて言った。少し気分が良かった。
【恵比寿の貸し会議】
神崎が阿南に呼び出しを受けた夜、『闇夜のカラス』のメンバーが集まっていた。
「やはり沢村米子の強さは異常です。私は現場にいましたが、全滅した11人のうち、沢村米子によって倒されたのは6人と思われます。他は沢村米子の仲間がやったようです。仲間は3人でした」
当日現場にいた藤谷が報告した。藤谷は闇桜に紛れて現場を監視していたのだ。
「私も1人殺りましたよ。米子ちゃんを後ろから撃とうしていた奴を倒しました。人に向けて撃ったのは初めてです」
川島が言った。
「2人ともご苦労だった。榊先生の暗殺を阻止出来て何よりだ。やはりあの娘に賭けて正解だったな。阿南はかなり焦ってる」
神崎が言った。
「JKアサシンは本当に強いです。沢村米子の仲間は遅れて参戦しましたが、見事な連携でした。スナイパーもいたようです。そういえば東北で一緒に戦ったミントっていう娘もいました」
藤谷が言った。
「いやあ、米子ちゃんは凄かった。制服姿でショットガンとサブマシンガンを使ってました。弾丸が飛び交う中、榊先生を背負って退避させたのはカッコよかったなあ。まるでハリウッド映画だ。もうアニメのヒロインみたいでしたよ!」
川島が興奮気味に言った。
「私も現場に行きたかったです。まあ射撃は苦手だし、ビビりだから役には立たなかったでしょうけど、あの娘の活躍を見たかったなあ」
杉浦が言った。
「やはり沢村栄一の娘だな。内情の厳しい訓練を受けたのもあるのだろうが、あの娘は天性の強さを持っている。沢村栄一の遺伝子だ」
原田がしみじみと言った。
「さすが沢さんの娘ですね。原田さんが作った見取り図も役に立ちましたよ。あれが無かったら上手く動けませんでした」
川島が言った。
「次は私も現場に行くよ。行かせてくれ」
原田が言った。
「パアーっと飲みに行きたいですね」
川島が言った。
「まだ戦いが終わったわけじゃ無い。これからも沢村米子を支援するんだ。あの娘ならきっと阿南に勝ってくれる。そのために我々も結束したんだ。沢村米子には沢村米子のやり方がある。我々には我々のやり方ある。大人の男としてのやり方だ。現場で培ったノウハウと胆力で阿南を追い詰めるぞ」
神崎が言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます