Chapter5 「ファイター米子 覚醒」

Chapter5 「ファイター米子 覚醒」


 ゴングが鳴った。米子が一歩後ろに下がるとシルビアが右腕を大きく振りかぶった。素人の喧嘩にありがちが大振りのパンチだった。米子はシルビアの右パンチを頭を右に振って避けた。左の大振りのパンチが続けて繰り出されるが米子はそれもスウェーバックで軽く躱す。シルビアのパンチはストレートともフックともつかない喧嘩パンチだった。米子にはそのパンチを避けるのは、そよ風に舞うタンポポの種の避けるくらいに簡単な事だった。


 シルビアはブンブンと腕を振り回すようにして何発もパンチを繰り出した。米子は時計回りに回りながら頭を左右に動かしてそれを避けた。


  262  名無し    11/15(土) 09:58:21.88

    一方的じゃねえか やっぱ体格だよ

  263  バキバキ   11/15(土) 09:58:43.49

    米子って方、しっかり相手の攻撃見てるぞ


 米子が足を止めた。シルビアも足を止めて米子と対峙する。

「オラッ、どうした! ビビッてんじゃねえぞ!」

シルビアが米子を挑発した。1カ月で高校を中退したシルビアにとって制服を着てリングに上がった米子は憎しみの対象でしかなかった。米子の右足がムチのようにしなやかに伸びて硬い脛がシルビアの左太腿に打ち込まれた。『バシーン!』という音が会場に響いた。完璧なローキックだった。シルビアの顔が歪む。米子はすかさず左の膝蹴りをシルビアの下腹部に押し出すように打ち込み、直後に得意の左ボディーブローを2発続けざま打ち込んだ。米子のボディーブローは中国武術の『発勁』のように衝撃波が内臓に伝わる。シルビアは内臓に強烈な衝撃を受けて中腰になった。ローキックからの見事なコンビネーションだった。米子はシルビアの攻撃を避けながらコンビネーション攻撃のチャンスを狙っていたのだ。シルビアは中腰のまま両手で腹を抑えて顔面がガラ空きになった。やってはいけない行動だった。

『ガコッ』

米子の左ハイキックが綺麗に伸びて足の甲がシルビアの右のこめかみに炸裂した。スカートから伸びた白い足と、露わになったボクサーパンツのような黒いショートスパッツのコントラストが観客の目を奪った。

「ウオーーー」 「おおーーーー」 「決まった!」 「カッケー」 「セクシーーー!」

会場が盛り上がる中、シルビアはマットに沈んだ。レフリーのカウントが響く中、米子はコーナーに戻った。10カウントが入りゴングが何度も鳴った。シルビアは倒れたままで完全に失神していた。

「勝者、アサシン米子!」

レフリーが叫ぶ。米子は青コーナーに戻った。

「沢村さんやったな!」

猪波が笑顔で言った。

「ハイキック、見事だったよ」

普段は無表情の黒木も笑顔だった。


  372 名無し    11/15(土) 10:01:23.64

    この子強くね? ボディー打ちとハイキックすげえ、キック出身か?

  373 バキバキ   11/15(土) 10:01:41.02

    軍隊格闘技だってよ

  374 名無し    11/15(土) 10:01:48.76

    軍隊格闘技ってなんだよ? ヒョードルとかハリトーノフみたいな感じ

    のやつか?

  375 将軍     11/15(土) 10:02:35.88

    美少女ファイター爆誕! しかも制服JK

  376 名無し    11/15(土) 10:02:48:.49

    セクシー、ていうか制服生足ハイキックエロい

  377 けっこう仮面 11/15(土) 10:02:57.88

    ヤバ、めちゃカワイイしマジファンになった


 米子は自分の後の無差別級の試合を2試合じっくりとリングサイドで観戦した。1試合は『プリンセス・エリカ』の試合で、もう一つは『ドスコイ松本』の試合だった。米子は2人の動きを録画するように様に脳に記憶した。


 米子と浜崎里香は控室のベンチに座っていた。

「沢村さんやっぱり強いよね。初めての試合とは思えないよ」

「相手はただの素人だったよ。喧嘩は強いのかもしれないけど、隙だらけだし、体も鍛えてないよ」

「まあ、この大会はプロもいれば町の喧嘩自慢や伝説のワルみたいな人も出場するからね。2回戦の相手は強く無いけど、勝てばその次は多分プリンセス・エリカになると思うからきっと厳しいよ。キック出身のプロの選手だよ。私も次の試合は凄く強い相手だから気合い入れていくよ」

「応援してるから頑張ってよね」

米子が言った。


 60Kg級の2回戦が始まり、浜崎里香の試合になった。米子はセコンドの手伝いになった。相手は60kg級優勝候補の『朝比奈沙耶』26歳。キックボクシング主体の選手で2年前はこの大会の50Kg級で優勝し、昨年は体重を増やしてグランドテクニックも身に付けて60Kg級で準優勝している。浜崎里香はタックルで相手を倒してグランドに持ち込む作戦だった。


 浜崎里香と朝倉沙耶がリングの中央で構えるとゴングが鳴った。朝比奈の速い左ローキックが浜崎里香の膝に炸裂した。浜崎里香は朝比奈の右足にタックルにいったがあっさりと切られた。慌てて上体を戻そうとした浜崎里香の左脇に強烈な右ミドルキックが襲う。後ろに下がる浜崎里香の両足に連続してローキックが叩き込まれる。浜崎里香が足を使ってリングの中を逃げるように動き回るが朝比奈が追いかけて左右のストレートを叩き込む。

「里香、ガードだ! ガードを上げろ!」

猪波の声が飛ぶ。浜崎里香は何度もタックルに出るがことごとく切られた。実力の差は歴然としていた。朝比奈のローキックが続けざまに炸裂する。浜崎里香はコーナーまで下がったところで足が止まった。朝比奈の高速ピストンのようなラッシュが浜崎里香を襲う。乱打のように見えるが上下に打ち分けた左右のパンチが確実にボディーと顔面にヒットする。

「里香~、ガード! ガードを上げて!」

米子が叫ぶ。

「里香、回れ、逃げろ、足を使え!」

黒木も叫ぶ。浜崎里香の体が前に傾いて倒れそうになるが、それを阻むように朝比奈のアッパーとフックが連続でヒットする。顎に入ったフックが脳を激しく揺らした。  

「里香ーーー、逃げてーーー!」

米子が叫ぶ。浜崎里香の意識が飛んで頭がガクンとなるが朝比奈のラッシュは止まらない。レフリーは失神に気付いていない。危険な状態だった。

「沢村さん、タオルを投げろ! 早く!」

猪波が大きな声で言った。米子はハッとしたが、左手に持っていた白いタオルを右手に持ち替えるとリングの中を目掛けて思い切り投げ込んだ。

「タオル!」

ジャッジが叫び、レフリーが浜崎里香と朝比奈の間に割って入る。


 浜崎里香が控室のベンチ座り、涙を流していた。両目の周りが腫れ、口の右端が切れていた。

「里香、相手は格上だ。いい経験になったと思うぞ」

猪波が言った。

「浜崎さん、良くやったよ。凄く頑張ってたよ」

米子も慰めの言葉を掛けた。

「ううっ、ありがとう。でも悔しいよ・・・・・・」

浜崎里香の目から涙が零れ続けた。


 「勝者、アサシン米子!」

レフリーの声が会場に響いた。米子の2回戦は不戦勝となった。米子と戦う予定だった1回戦の勝者が試合後に靭帯が切れていた事が発覚したためだだった。米子はリングの中央で四方に4回深々とお辞儀をするとリングを降りた。2回戦は予想通りに「プリンセス・エリカ』と『ドスコイ松本』がKO勝利して3回戦に進んだ。米子は2人の戦いを観戦してその強さに驚いた。米子の次の相手はプリンセス・エリカに決定した。


 米子は次の試合まで控室で浜崎里香と話していた。控室には他の選手もいた。負けて悔しがる選手や次の試合に備えて軽くシャドウをしている選手もいた。

「沢村さん、次のプリンセス・エリカは強いよ。3年前に女子キックボクシングミドル級でチャンピオンになったんだよ。3回防衛した後負けたけど、総合に転向して、今回は無差別級で優勝を狙ってるんだよ」

浜崎里香が言った。

「さっきその人の試合見たけど、スピードとパワーが凄かったよ。身長は同じくらいだけど、体重は向こうの方が10キロは重いよね。勝てる気がしないよ。私の技術は競技向きじゃないし」

米子が本音を漏らした。恐怖は感じなかったが、自分の技術が通用するとは思えなかった。米子は訓練所を卒業してから格闘で怖いと思った事は無かった。常に冷めた気持ちだった。負ければ命を失うだけで、負けた事も知ることができないと思っていた。しかし勝敗がはっきりと自覚できる競技としての戦いには自信が持てなかった。自分のこれまでの戦いとは違うと感じていた。

「でも初めての出場で1回戦に勝っただけでも凄いよ。ジムとか道場で練習してたわけじゃないのに。きっと本気で取り組めば凄く伸びると思うよ」

「まあ、今回は受験勉強の息抜きに出たみたいな感じだよ。そんなので勝てるほど甘い世界じゃないよね」

「道場に通ってる私も負けたし、甘い世界じゃないよね。でも沢村さんならワンチャンあるかもしれないから私の分も頑張ってよ」

「やるだけやってみるよ」




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