ちょっとしたお話集〜1分で読める創作小説2025〜
天音 花香
ニブいんだから
見てしまった。
なんとなく、両想いなんじゃないかなと思って二人のこと見てはいたけれど。
二人で相合傘して帰るってことは、やっぱり本当につきあっているんだろうなあ。
これはショック受けるだろうな。
と思ったときに、ふと隣に気配を感じた。
そこには、相合傘する二人を見つめる佐藤君がいた。
私はすぐに佐藤君から目を逸らした。
こんな顔、見たくなかったんだよね。タイミング悪すぎる。
自分の気持ちと、佐藤君の気持ちが重なって、涙が滲む。慌てて目を擦ると、
「泣いてんの?」
と佐藤君の声が降ってきた。
「花粉症でね。今年の花粉はほんと酷くてやになる」
私の言葉に佐藤君は泣き笑いを浮かべた。
「そっか。俺も花粉症みたい」
雨の日に花粉はそんなに飛ばないっての。
「長谷川、傘持ってる?」
「え?」
「俺、持ってなくて。持ってるなら入れてくれない? 失恋した同士、一緒帰ろ」
失恋って。勘違いされちゃったのか。
「私はもっと前から失恋してたよ。ニブい誰かさんに」
「え?」
ほんと、ニブいんだから。
そういうところも可愛いけど、今は悲しい。
「一人で帰れば、ニブチン!」
私は折り畳み傘を佐藤君に押し付けて、雨の中へ駆け出した。
私の好きな人は佐藤君、君だっての!
なのに、追っても来てくれない。
私の気持ち、伝わってもいないかも。
佐藤君ニブいから。
悔しい。悔しいけど。
佐藤君なんて! 大好きだ〜!
私は今度は雨のせいにして、走りながら盛大に涙をこぼした。
了
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