Uncommon ⚔️ Adventurer

🕰️イニシ原

一章 丘を越えて

001 暁の三翼

 茜色の太陽に向かって、長い影を背負った3人が連なっていた。


 先頭を歩くのは、「ル礼ルるれいる」まだ幼さの残る小さな背中が、荒れ果てた道なき道を迷いなく進んでいく。誰よりも早く、その道に隠されたわずかな足場を見つけ出すように。


 真ん中にいる男、「碧ラあおら」がこの旅の羅針盤だ。彼の背負う、方向と時間という二つの重荷。それが許されるのは、命を預かる覚悟を持つ者だけに与えられた特権だった。


 列の最後尾の女性、「瑠フィーダるふぃーだ」は分厚い背中が担っていた。他の二人の荷物まで背負い、まるで壁のように立ちはだかるその姿は、この旅の最後の砦を思わせていた。


「ル礼ル」


 碧ラが優しく呼びかける声が、群青の空に溶けていく。


「もう日が落ちる。休める場所を探してきてくれ。俺は瑠フィーダと行くよ」


「うん、兄ちゃん。いい場所、見つけてくるね」


 返事とともに、ル礼ルの小さな背中が丘を駆け上がっていく。その姿に、疲れの色は一片もなかった。


「瑠フィーダ、疲れただろう。半分持つから、渡すんだ」


 碧ラの言葉に、瑠フィーダは一言も発さず、ただ荷物を前に差し出した。その無言のやり取りの中に、男としての誇りを持つ彼女が、ただ一人、素直にその重荷を分け与えることのできる、深い信頼関係があった。


 日がすっかり沈み、夜の帳が降りる頃、ル礼ルが確保したのは、朽ちた遺跡の壁に囲まれた、ささやかな休息地だった。


「すまない、二人とも。王都には今日中につけるはずだったのに、計算違いだったよ。今日は早く眠って、夜明け前に出発する。しっかり体力を回復させておくんだ」


 碧ラの言葉に、ル礼ルはカバンから硬くなったパンを一つ取り出した。

「うん、あとこれだけ残ってるから、食べる?」


 必死に割ろうとするが、硬いパンはびくともしない。そのとき、瑠フィーダの分厚い手がスッと伸び、パンを軽々と二つに割った。


「二人で食べるんだ、明日も大変だからな」


 碧ラの声に、ル礼ルと瑠フィーダは無言でパンを受け取った。


「王都でこの金目の物を売りさばいたら、すぐ『翠コ』姉さんたちを迎えに行かないと……あちらも、もう食べる物もないだろうからな」


 どうにか床と言える場所にマントを広げ、碧ラは横になった。その時、彼の胸元にパンの欠片が飛んできた。送り主であろう瑠フィーダを見ると、彼女はもう眠りに落ちていた。碧ラは言葉もなく、硬いパンを噛みしめる。彼の隣で、ル礼ルは小さなリスのように、いつまでもパンをかじり続けていた。その音が、彼らの間に流れる静かな時間だけを刻んでいた。


 薄い月の弱い光が、朽ちた壁の隙間から、まるで細い剣のように差し込んでいた。


 その冷たい光に、碧ラは身震いする。それは寒さからか、あるいは何かの予感か。ゆっくりと上半身を起こした時、彼は気づいた。崩れかけた柱と梁の上に、人が立っている。


 人影は、月明かりを背に、まるで夢や幻のように静かに佇んでいた。

 しかし、碧ラの胸中で跳ね上がる心臓の鼓動だけが、それが現実だと叫んでいた。


 彼は、その場で動けずにいた。

 恐怖からではない。長年の冒険者としての勘が、彼の全身に動いてはならないと告げていたからだ。


 碧ラの額から、一筋の汗が伝い落ちる。視線を下げると、瑠フィーダもすでに目を覚まし、二人だけの静かな視線が交わされた。言葉はいらなかった。二人は動かず、上部の人物をただ見張っていた。


 張り詰めた空気の中、時間が歪んでいく。


 その静寂を切り裂くように、バサッと羽音が響いた。暗闇から現れたもう一つのシルエット。淡い月明かりの中でもはっきりとわかる、白い羽を広げていた。自身の体よりも大きいその二つの羽を器用に畳むと、それはもうただの人影にしか見えなかった。


「おい、ベルノ様はどうした?」


「すぐ来る。肩に矢傷を負ったが、あの方に心配はいらない。それより、退路は人間どもに見つかってないだろうな?」


「もちろんだ。見つかっていれば、とっくに火事になって何もかも灰になっているさ」


「ああ、ベルノ様が来たぞ!」


 その言葉を最後に、無音が続いた。

 何が起こったのか。碧ラがそう考えた時、バサバサと羽音が響いてきた。頭上を見上げると、そこには彼らと同じように、二つの羽を持つ人影が立っている。


「ミゼ、ヒルト……やったぞ。百年の悲願だ」


 その声は、あふれる感情を押し殺し、かろうじて言葉を紡いでいるようだった。


「もう人間どもはコレがないことに気づいている。だから我ら三翼では帰らない……ミゼ、お前がコレを持って"西へ"行け。私とヒルトで"北に"行き、囮になる」


 ミゼと呼ばれた一翼は、その言葉に何も言わない。


「人間どもは、我らを二翼だと思っているからな。ミゼ、すまないが、国境まで歩いて目立たないように戻るんだ」


「はい、命に代えても、必ず国へ持ち帰ります」


「もうすぐ太陽が昇る……人間には馬がいる。それは、我らの飛行速度をも超える。そして弓の使い手は、我々と同じ……いや、それ以上だと思え。この私の傷を思い出せばいい。決して、侮るな」


「我々が空を飛んでいる時でさえ、狙える者が中にはいた。もし出会うようなら……十分に気をつけろよ」


「ヒルト、ベルノ様……では、国で出会いましょう」


 ミゼの言葉に、三人は広げた羽を夜の闇に溶け込ませた。その姿は、固唾を飲むほどの美しさと、心臓を凍りつかせるような恐怖が同居していた。


 すべてが消え去った後も、碧ラと瑠フィーダはしばらく動くことができなかった。

 ようやく朝日が昇り始めるわずかな光が、身体を縛っていた緊張をゆっくりと解き放っていく。その時、ル礼ルが目を覚ました。


「二人とも、目の下にクマがすごいよ。眠れなかったの?」


 ル礼ルの屈託のない声が、張り詰めていた夜の空気を、そっとかき消した。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 あとがき。


 キャラの名前も姿のように、読む人によって違くてもいいと思っています。なので、「ル礼ル」は私的には(るれいる)ですがルルと呼んでもいいし、ルネレルでもいいと思います。


 キャラ紹介1

 ル礼ル (るれいる)

 性別: N(精神)/ F(肉体)

 年齢:13歳

(性別は、男M:女F:中性N:がある。そして肉体と精神に別れているので、6種類あります。)


 孤児として育ったため、仲間への依存が強い。特に、優しい瑠フィーダには懐いており、いつも一緒にいようとします。明るく無邪気な言動で、旅のムードメーカーでもありますが、時折見せる純粋な優しさが、物語の核心を動かすことがあります。


 ーーーー


 面白いと思っていただけましたら、☆(スター)やフォローをしていただけると、とても嬉しいです。感想やコメントもお気軽にどうぞ!


 次回もお楽しみに。◆更新予定:(9・23火曜日20:03)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る