第48話 基本にして極意

 リゼットが恐ろしいということに安心するという矛盾を孕んだ感情のまま、私は彼女に連れられ訓練場へと引き返した。

 訓練場に常備されている鉄剣と盾。ここ一週間で見慣れた2つの装備を取り出して、リゼットは盾の方を私へ差し出す。

 

「わたくしが満足するまで剣を受け続けなさい」


 (なんだか最近似たようなことを言われた気がするなぁ)


 この世界では盾使いをサンドバックにすることが訓練として定着しているのだろうか。

 タンクの仕事は攻撃を受ける事なのだから、合理的ではあるかもしれない。とはいえ、これでは成り手が少ないだろうなと思わずにはいられない。

 

「平民、行くわよ」


 言うや否や、リゼットは弾丸のように直進し、私へ剣を振り下ろした。


 (早いけど直進的、正面で受けられる!)


 不意打ち気味に始まった戦闘だが、私は思いのほか冷静にリゼットの剣を見ることができた。

 リゼットは教官よりも早いが、一撃の威力は数段劣っている。


 剣と盾がかち合うガンッという鈍い音が鳴り――次の瞬間には、私の背後にリゼットが回り込んでいた。


 (速すぎっ!)


 バルタザール教官のときは速すぎて思考が追いつかないと思ったものだが、リゼットの場合はそもそも目で追う事すらできなかった。

 気づいた頃には、私のガラ空きになっている脇腹に鉄剣が食い込んでいる。


「ごぇぇぇ」


 ほんの数瞬前に、リゼットは一撃が軽いから何とかなるかもしれない、なんて抜けたことを考えていた自分を蹴飛ばしたい。

 教官のように、盾で一撃受け止めるだけで手が痺れるような力はないが、それでも鉄製の剣が腹に刺さればそれだけで大ダメージになる。

 教官とやっていたときよりも、痛烈な一撃が腹に入った。


 私は転がったその場に胃の中の物を吐き出す。


「良かったわね。今のうちに身軽になれて」

「ど、どうも…………《ヒール》」


 折れているであろう肋骨を治癒し、私は口の中の不快感に耐えながら立ち上がった。

 

 ――それから、剣で打たれた数を数えるのがバカらしくなるくらいに、私は滅多打ちにされた。


 (凄いよリゼット……教官よりスパルタじゃん…………)


「《ヒール》…………」


 ついに私は最後の魔力を使い切った。

 情けなく地に伏した私を、リゼットは冷たく見下ろしている。


「平民、お前、頭に脳みそが入っていないのかしら?」

「ひでぇ……」


 もはや言葉遣いに気を遣う余裕もなく、私は仰向けに倒れたままリゼットを見上げた。


「お前はただ、盾で私の剣を受け止めようとしてるだけなのよ」

「盾使いなんだから、当然じゃないですか……」

「だから脳みそが入っていないというのよ愚民。受け止めるのではなく、

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