第46話 停滞感
あの日、私は、めでたくバルタザール教官に弟子入りを認められた。
そして、かれこれ一週間ほど、私は彼の下で指導を受けている。
地獄のような指導を――。
「さっさと起き上がらんか!」
ボールのように転がされた私の鼻先で土煙が舞う。目に砂が入り、涙でぼやけた視界の先で、地に転がる私の脇腹を狙う教官の足が見えた。
あんな蹴りをまともに受けてしまえば胃の中の物を全て吐き出すことになるのが目に見えている。私は全力で盾を構えて胴体を守った。
しかし、受けきることができず、私の身体は再び数メートルほど勢いよくゴロゴロと転がされた。
「どうした小娘! まだ昼にもなっとらんぞ! 昼寝には早すぎやしないか⁉」
「……は、ぃ」
「返事はデッカイ声でせんかい! 羽虫か貴様は!」
バルタザール教官が私に与えた新たな課題は、彼の攻撃を倒れることなく10回連続で受けきること。
それだけの単純なことが、一週間続けても全くできていない。
できる気配もない。
「敵は正面から馬鹿正直に襲ってくるばかりじゃないぞ! 先を読め!」
(先を読むって言ったって――速すぎて、思考が追いつかない!)
私の装備は訓練用の武骨な鉄の盾が一枚。
対する教官の装備は、ラウンドシールドと刃を潰した鉄の剣。
当たり前だが、刃が潰れていようが鉄製の武器であることに変わりはない。まともに当てられては、骨が砕ける。
その上、教官は巧みな体術でラウンドシールドによる突進や蹴り技を織り交ぜて私を
「ぐぁっ⁉」
身体がバランスを失ったところで、教官の強烈な剣が盾ごと私を吹き飛ばした。
その瞬間、サーペントフォックスに投げ飛ばされた嫌な感覚がフラッシュバックする。
(全然、成長してない……!)
だが、打ちのめされた私を、教官が優しく慰めることなどない。
「立て。お前が崩れればモンスターはお前の仲間を襲う。貴様のせいで、仲間が死ぬぞ」
「ッ……は、はい!」
何度でも、私は転がされては立ち上がる。
「小娘、次は、骨を砕きに行く」
冷徹な教官の声が、私の精神を極限の状態へ導く。
――結局、その日も私は課題をクリアできなかった。
訓練の中で、新たな盾スキルを習得するようなこともない。
まだ訓練が始まって一週間。そう簡単に成果を期待するものではない。
わかっているが、私は、内心で焦りを感じていた。
(ゲームでは、どれだけレベルを上げようと、
ヒールで傷を治すことはできるが、削られたメンタルまでは戻らない。
疑念が私に迷いを与えていた。
(リゼット、私は、どうしたら君に追いつける……)
「平民……何をぼーっとしているのかしら?」
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